漆猫という人間

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「よお七楽。本当ならお前の顔なんて見たくねーけど、嬢ちゃんは俺の預かりなんだわ、手荒なことすんじゃねーよ」 「俺だって見たくもない。不愉快だ」  なん、だろ。この空気。ただ二人が言葉を交わしただけなのの、一気に重苦しくなった。ていうか。 「知り合いなんですか?」  聞かれた一人、矢丞さんは何故か私の肩を抱き寄せ、片方だけ口角を上げて耳打ちする。と言っても彼にも聞こえる声で。 「あぁー、あんたも気づいてると思うけど、こいつ、正義感気持ち悪いくらい強くてよー、めーんどくさいんすよねー。冷徹非道の動く迷惑機械?」  はぁ、と相槌をうつと、納得がいかないもう一人は頬を赤くして吠える。 「なっ!なんだよそれ!あんたこそ仕事もしない、隙あらば寝る、とんでもないぐうたら野郎じゃないか!」 「失敬だなー。お仕事はきっちりやりやすよー。なんならお前の首はねてもいー。ま、めんどくさいけど」 「そういう所が嫌いなんだ」  うーん、どっちもお互いを凄く嫌ってるのが分かる。矢丞さんは興味がなさそうに目も合わせないし、何より声によく出る。青年の方は態度によく出ている。  でも、どちらかといえば矢丞さんの方が嫌ってる気もする。青年の方はまだ可愛らしい嫌い方だもん。嫌いな人に恥ずかしがって頬を赤くなんてしないでしょ。  などと観察していると、矢丞さんが噛み付くように妙なことを言う。
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