漆猫という人間

6/16
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
「なら、ちょっかい出さないでもらえますかねー、うちの嬢ちゃんは見かけによらず獰猛な猫なんだから」 「見かけ通りの間違いでしょ?」  はい!?  聞き捨てならぬ返答に、言い返さずにはいられない。 「こ…この人でなし!もう我慢できない!言わせておけばこの…!」 「ほらほらだめだってー。びっくりして泣いちゃうよー」 「泣かないよ!はぁ…もういいよ。今日のところは目を瞑ってあげる。けど、今度会った時は」 「まだ疑ってるの?」 「どう見ても君は人間じゃないからね」 「っ!」  グサッと鋭利なものが私の胸に確かに刺さった。刺した当の本人は、もう私なんか見ていない。 「内野さん、込み合って申し訳ない。案内してもらえますか」  老人は戸惑いながらも彼を案内することにしたようだ。  残された私は、陰陽師だという七楽飛鷹の背から目が離せなかった。まだ、痛む。  隣に、矢丞さんがいるのに、一人殻に閉じこもろうとした。 「漆猫」  だけど、名を呼ばれて、子どもみたいに心をかき乱された状態で何も考えず嘆く。 「私は、人間だもん。なんで、なんでどこに行っても…」  それ以上言ってしまえば、傷ついた心に変わって目が滲むというのに、やめれそうにない。息が荒くなる、そう思った時だった。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!