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腰刀に手を伸ばそうとしたその時、私を庇うように前に出た男の人が低く唸った。
「おいおい、女の子だぞ、てめぇら」
「っ」
外見からも今までの接し方からしても想像がつかない口調に、肝を冷やしたのは私だけではない。司令塔と思しき人物ですら、怖気づいて頬をひきつらせている。
ピリつく空気からも、その人の赤い瞳から目を逸らすなんてこと許されるはずもなく、一同が凍りついた。次の瞬間───
「なんてな。だるいから俺、行くわ」
「は?」
間の抜けた声が一気に緊張の糸を切って行った。
私もあまりの拍子の抜け加減に目を丸くしていると、
「よっと」
私に向き直った男の人が少し屈んだかと思うと腰を掴んで、腰を掴んで担ぎあげたのだ!
「えぇ!?お、下ろし…」
戸惑う私をおいて男は駆け出す。肩に担がれた私の視界には、鬼の形相で追いかけてくる男四人衆が。
なにこの状況。そもそもなんで八百比丘尼族ってばれてるの?やはり、って言ったよね?私の行動は筒抜けってこと?
悶々と思考を巡らせている間も、担ぎ運ばれていた私はふと正面を振り返る。嫌な予感を察知したのだ。だってここは霧の中。いくら霧に包まれた平原だからって、ここはあくまであやかしの住まう地。住みやすいよう土地の変形とかしてたら、そう思って気づいたら叫んでいた。
「だめ、だめだめだめー!闇雲に突っ込んだら落ちるよー!」
男が、ん?とこちらを振り向いた、その時だった。
勢いよく踏み込んだ先に、次に踏みしめる地面はなく、私達は奈落の底に落ちていった。
「ほおらあ〜〜〜」
泣き叫ぶわたしを両腕で抱えたまま、男は何故か不敵な笑みを浮かべて奈落の底を静かに見下ろしていた。
わざと、この人落ちたんだ。とはいえ落下の浮遊感に耐えられず、男の人の腰に手を回したのだった。
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