「三日月」

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「あいつは最後まであいつだった。」 俺は停止ボタンを押した。 「お前らに殺される直前までな。」 縄で縛られたマネキンを一瞥する。 1人は許しを乞うような音声を発し 1人は言い訳をし 1人は気絶したままだ。 会話を流していたスマートフォンをしまう。 同時に、赤い箱を取り出した。 外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。 季節の変わり目にふさわしい、心地よい風だ。 空を見上げると、三日月がのぼっていた。 あの日と変わらない そっくりな三日月だ。 あいつも見ていたのか。 この三日月を。 重力に引っ張られ 意識が薄れる直前まで。 「23人」 あと4人か。 『兄ちゃん。』 いつもと変わらない声が こだまする。 もうそろそろ 会えるからな。 あの日と変わらない 三日月 完全でないその体は 照らし続けた。 優しい月明かりの下 真っ赤に勢いをなす光と 悲哀と狂気に満ちた人間を
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