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俺は怒っているんだろうか。自分のことなのにそれすらもわからない。怒っているなら何に対してだ。 突然やって来て失礼なことを繰り返したシャーロットに対してだろうか。それともオーウェンに対してだろうか。 たしかに許嫁のことを黙っていたオーウェンに怒っているところもある。 しかし五年も前に許嫁ではなくなっていたらわざわざ言わなくても不思議ではないと冷静さを取り戻してきた頭で考える。 きっと一番腹が立って嫌な気持ちになっている理由はみっともないけど、オーウェンに可愛い女性の許嫁がいたことと、ディランがすぐさま追い返すことがないくらいには彼女との交流関係があったということだ。 庭園を歩くシャーロットの足取りは迷いがなかったため、この城に何度か来たことがあったのだろう。 「俺はどうしたいんだ……」 元の世界に帰るか帰らないか、いつかは答えを出さないといけないとはわかっていた。 けれど俺がはっきりと答えを出さなくてもここに置いてくれるオーウェンの優しさに甘えてしまったのだ。 オーウェンにあんな態度をとったのは、オーウェンが俺に特別な感情を抱いてくれているとわかっているからだ。 そしてそれゆえに、俺とオーウェンの間ではオーウェンと対等でありたいと思い始めている。それを自分でわかっていてあんな態度をとったわけではないけど。 「はぁ……」 いつのまにかオーウェンと離れるなんてことを考えなくなっていた。 けれど今までの生活をすべて捨てられるのかと問うと、まだはっきりと答えはでない。 元の生活にどうしても戻りたいわけではないが、やっぱりオーウェンと上手くいかなくなったらと思うと大きな不安に繋がる。 ため息を吐きながらソファに寄りかかり体から力を抜く。ひとりになったことで緊張が解れていくのがわかった。 最初は与えられて使わせてもらっていると思っていた部屋が、今では自分の部屋だという認識になっていることがなんだか可笑しくて息をはいて笑った。 大きすぎる迷いを持て余す俺の気分に合わせたかのように、いつのまにか外は雨が降っている。 規則的な雨粒の音は気分を落ち着かせるためには効果絶大で、ゆっくりと瞼をおろした。 いちご、ブルーベリー、マーマレード。瓶に詰まった様々な種類のジャムは、スーパーの棚に値段順に綺麗に並べられている。 まずいつも買っている二百円前後のジャムを見て、少し離れて置いてある五百円前後のジャムに視線を移す。 いつものジャムより内容量は少なく、それでも高価なジャムの前で迷う俺は視線をいったり来たりしたあと、やっぱりいつものジャムを手に取る。 よく考えたら三百円の差しかないのに、ジャムを贅沢なものに変えるのに毎回迷っている。 安いジャムでもオーウェンは嫌がらないだろうかと顔を上げてスーパーの通路を見渡す。 そんなに広くもないのにスーパーで別行動をとると合流したいときに面倒なんだよな、と思ったところでいるはずもない人を探していることに気づいた。 そうか、俺は──。
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