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お互いに気持ちを伝えあった日から庶民暮らしをしていた俺にはついていけないほどに色々なことがすすめられ、瞬く間に日が過ぎていた。 まずディランとセスに報告し、そのあとオーウェンとディランが動いたのだろう気づけば城全体の使用人にまで広がり、すぐに城の外まで情報が行き渡った。 俺はそう聞いているだけだから、本当のところはどのあたりまでの人が知っているのかはよくわからないけど。 今までも本を読んだり散歩をする他に、テーブルマナーやこの国の歴史について教えてもらう時間はあったが、今までの比にならないほど王族としてのマナーやダンスのレッスン、近隣諸国の勉強などの時間が増え俺もオーウェンもろくに顔をあわせないほど忙しなく日々を過ごしていた。 その忙しさもどうやら、今日で一段落つくらしい。 「緊張するなぁ」 「みんなユキを待っているぞ」 「……緊張を和らげて欲しいんだけど」 グレーのシャツに黒いネクタイ、白いジャケットを羽織ったオーウェンは目を細めて笑う。 あまりの格好良さに見とれながらずいぶん表情が変わるようになったなと思った。 まぁオーウェンから見ればそれは俺も同じだろうけど。 「これでどうだ?」 右側に立つオーウェンは俺の右手を優しく握りしめる。 久しぶりの肌の重なりにさらに鼓動が早くなったが向けられた柔らかな笑みと深呼吸で、少しだけ気持ちが落ち着いた。 隣にオーウェンがいるから大丈夫だろうと思える。 「なんかこのネクタイの色、オーウェンみたい」 あいている左手でいじるネクタイは落ち着いた深い赤で、なんとなくオーウェンのようだと思う。 俺は黒いシャツに黒いジャケットを身にまとっているからネクタイの赤がよく目立つ。 「そういう可愛いことはこれが終わってから聞かせてくれ」 少し屈んで俺の耳元に口を寄せたオーウェンとその言葉にいっきに頬が染まる。 そんな俺のことはお構いなしにバルコニーへと続く扉が開かれた。 優しい風とともに人々の声が聞こえてきてやりすごそうとした緊張がよみがえる。 「行こう」 「……うん」 ふぅ、と息を吐いて顔を引き締める。いつのまにか隣のオーウェンもすっかり王子の顔になっていた。 今から執り行われるのは、正式な婚約の義と民へのお披露目だ。 婚約といってもどうやら俺の世界の結婚と同じようなものらしく、今日ここでオーウェンとともにいること、オーウェンとのこれからを誓いあう。 この世界の人に俺は受け入れて貰えるのだろうかという不安はあるが、それよりも正式にオーウェンの隣にいられることが嬉しかった。 オーウェンと俺は手を繋いだまま歩き出す。 バルコニーの手前で笑顔で俺たちを見る使用人、セスとディランの胸のなかのおめでとうを受け取って光の溢れるバルコニーに足を踏み入れた。 「オーウェン様!」 「ユキ様!」 俺たちが姿を現すと待っていた国民から大きな拍手と歓声があがった。 この世界にきてから目にしたことのないほどの人の数、おめでどうございます、と溢れる声に目の奥が熱くなる。 「心配なかっただろう?」 隣で呟いたオーウェンの声に応えるために繋いでいる手の力を強めた。 しばらくの間オーウェンとともに人々の歓声に手を振って応えていたが、手をおろしたオーウェンに倣って俺も手を下げ繋いでいた手もはなす。 お互いに向かい合うと、下からの歓声もぴたりと止んで静寂があたりに満ちた。 俺のことだけを真っ直ぐ見つめるオーウェンが俺の左手を掴んで持ち上げる。 「私のこれまで、これから、すべてをユキに誓う」 よく通る声が隣に立つ俺だけではなく、空気を震わせてこの世界に広がっていく。 誓いを口にしたオーウェンは持ち上げた俺の手の甲に優しく唇を落とした。 またオーウェンが体を真っ直ぐにすると、今度は俺がオーウェンの左手をとった。 やることはわかってるんだから、大丈夫。 「私のこれまで、これから、すべてをオーウェンに誓う」 オーウェンのように堂々とできたかはわからないが、言葉と想いをのせた声はどうにか震えずにあたりに響いた。 焦る気持ちを抑えてゆっくりとオーウェンの手の甲にキスをする。 唇が触れた瞬間、わっと歓声が上がり大きな拍手が俺とオーウェンを祝福してくれた。 「ユキ、ありがとう」 「うん。ありがとう、オーウェン」 俺と出会ってくれて、俺を好きになってくれて、俺に想いを伝えてくれて、俺とのこれからを選んでくれてありがとう。 様々な想いと感謝をのせてオーウェンを見つめる。 俺を見つめるオーウェンの瞳にも、確かに同じ想いがあった。 突然やってきた異世界でこれからどうなるのかなんてわからない。 けれど隣に立つオーウェンが俺のことを愛してくれていると知っているから、不安なんて必要ない。
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