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セスに淹れてもらった紅茶を飲みながらソファで本を読んでいると丁寧に扉がノックされ、意外な人物が顔を見せた。 「ユキ様、今よろしいでしょうか」 「ディランさん」 オーウェンとともに仕事に取りかかっているはずのディランは疲れきった顔をしている。 数日前から片付ける書類仕事が多くなったようで、オーウェンもディランもここ数日間は部屋に籠っていた。 正式に婚約してから眠るのはオーウェンの部屋になったが、オーウェンの部屋は執務室にもなっているため昼間仕事をしている時間帯は俺は元の部屋で過ごしている。 別にいても構わないとは言われているから、オーウェンの部屋で過ごしたり自分の部屋に戻ったりとその日の予定によってどちらかの部屋で過ごしていた。 「大丈夫ですよ。何かありましたか?」 「ユキ様に頼るのも申し訳ないのですが、最終手段を使わざるをえない状況でして……」 オーウェンと同じでろくに寝ていないのだろう、疲れの見える顔のままディランは深刻そうに頷いた。 「……これは大変な状況ですね」 「どうにかできるのはユキ様だけなのです」 ディランの背に付いていくと、辿り着いたのはオーウェンの部屋だった。 この中にディランでも手に負えないほどに深刻なことがあるのかと最初は不思議だったが、開けられたドアから中に入るとなんとなく状況は把握できた。 テーブルの上に散乱している書類、端に積み上げられた書類の山、それを前にソファに寄り掛かり動かないオーウェン。 忙しそうな様子から心配はしていたがまさかこれほどまでに追い込まれているとは。 「今までは集中が切れても、ユキ様に格好良い王子として見てもらうため、これが終わったらユキ様と過ごせると、私が誤魔化しながらやってきたのですがそのやりかたももう限界のようで……」 オーウェンを奮いたせるために俺が使われていたとは知らなかった。 視線の先で疲れきっているオーウェンと、王子が仕事をしないと困るであろうディランの力になるためにソファに近づく。 俺の行動に安心したのか、息を吐いたディランは私も少し休憩しますと部屋を出ていった。 「オーウェン」 ソファの背に頭をもたれているオーウェンは目を瞑っているため小さな声で名前を呼ぶ。 ディランからしたら寝ていても起こせということなんだろうけど。 確かに起きないと励ますこともできないため、一瞬ためらったがソファに体を預けるオーウェンに股がるように向かい合って座った。 俺から普段こういったことはしないため恥ずかしいが力尽きたオーウェンとディランのためだ。 俺が上に座ってもオーウェンは動かない。寝ているらしいオーウェンの頬に左手を添えた。 「オーウェン、お疲れさま」 寝ているオーウェン相手だからか普段より大胆な俺はあまり恥ずかしさを感じないでオーウェンの頬を撫でる。 何度見ても整っている顔に引き寄せられるように自分の顔を近づけると薄い唇に自分のものを重ねた。 オーウェンの瞼が震える。顔をはなすとオーウェンの耳がほんのりと色づいていることに気づき、まさかと思う。 「もしかして起きてる?」 俺の言葉を受けたオーウェンは少し気まずそうに目を開けた。 「……まさかユキがこんなことをしてくれるなんて」 俺の予想外な行動に泳ぐ目、眉間によるシワからオーウェンが照れているのが伝わってきて、今の行動を知られていた恥ずかしさよりも新鮮な気持ちが胸に広がる。 「応援しに来た」 「さっきのをもう一度してくれたらあと数日は起きていられそうだ」 真顔でそんなことを言うオーウェンにおかしさを感じながらもまた顔を近づかせる。 恥ずかしさは感じるけど結局俺もオーウェンとの触れあいに喜んでいるんだよなぁと思いながら、もう一度唇を重ねた。
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