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19
ぱらり。紙のめくれる乾いた音を背中で聞きながら、文字を追うために細かく動く黄色い瞳をじっと見つめていた。
夕方に近づいた時刻、オーウェンの部屋には仕事を片付けるオーウェンと俺のふたりだけ。
それはいつものことなのだけど、今はいつもとは違う部分があった。
普段ならソファで静かに読書をしている俺が、オーウェンと向かい合う体勢でオーウェンの膝の上にいる。
以前ディランの頼みで同じようなことをしたからか、あれからこの体勢をせがまれるようになってしまった。
仕事の疲れを癒してくれと言われたら断ることなんてできず、恥ずかしいけどなんだかんだオーウェンの要求にいつも応えている。
(それにしても、本当に綺麗な目だなぁ)
日本に住んでいた頃は見たことのなかった黄色い瞳を、いつかじっくりと観察したいと思っていた。
手持ちぶさたな俺は、十分前くらいからオーウェンの黄色い瞳を見続けている。
日本にいた頃に外国人の瞳の色のことで聞いたように、オーウェンの瞳も体調や天気や光の加減で透き通るような色になったり深みのある色に変化するらしい。
飽きもせずにじっと見ていると、合いそうで合わなかった視線が重なった。
あ、目が合った、と思っているうちに顔が近づいて唇に柔らかな感触。
目を瞑ることもできなかった俺に、いままで以上に黄色が近づく。
「キスを待っていたのか?」
「違うよ、目を見てた」
「でもしたかっただろう?」
「……まぁ、そうだね」
したいかしたくないかで言ったらそりゃしたいに決まってる。
唇とともに離れた顔はまたもとの位置に戻り、顔を赤くしているのは俺だけでなんだか少し悔しくなる。
ただオーウェンもさっきと違って口元を緩めたから、俺だけが喜んでいるわけではないみたいだけど。
目を見ることはやめていったん体の向きを正面にしようとした俺は、閃いて反転させる体を止める。
もう一度オーウェンの瞳を見つめると顔を近づかせた。
唇を押し付けると同時に、視界を埋める黄色い目が驚いたように見開かれる。
「キスしたいのかと思ったけど違った?」
「……いや、当たりだ」
唇は離れても、すぐに触れそうな距離のままだった頭の後ろに手がまわり、それ以上引くことは許されなくなる。
どちらともなくまた唇を合わせると、今度は深く口付けられた。
何度も角度を変えられ侵入してきた舌がかき乱す。
お互いがお互いに夢中になっていると、オーウェンは俺を抱えたまま立ち上がった。
「ちょっと待って、まだ仕事中でしょ。ディランさんに怒られるよ」
「実は今日の分は既に終わらせてある。俺を見つめるユキが可愛くてやっているふりをしていた」
「……でもこれから夕食だし」
「そろそろいいか?」
ただちょっと仕返しがしたかっただけでベッドに連れていかれることは予想していなかった俺は言い訳を並べてみるものの、結局は断ることなんてしないから口を塞ぐようなキスを受けながら大人しくベッドに運ばれる。
だってやっぱり、したいかしたくないかで聞かれたらそりゃしたいに決まってるから。
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