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瞼が震えて少しだけ目を開ける。熱の出たときのような怠さを感じながら、ぼうっと知らない天井を眺め息を深く吐き出した。 そばでカチャカチャと金属の触れ合う音が聞こえ頭をずらせば、俺が横になっているベッドの脇に立つ人物が目に入った。こちらに背を向けている白髪の男性は六十代くらいだろうか。 何か道具を片付けている後ろ姿を眺めていると、振り返ったその人と目が合う。一瞬大きく見開かれた瞳はすぐに優しく緩んだ。 「気がつかれましたか」 安心したような笑みを向ける男性は外国人なのか、日本人とは違った顔立ちをしている。 そういえばさっき会った赤髪の男性も日本人っぽくなかったなと、色素の薄い瞳、アスリートまではいかなくても自分よりもしっかりした体つきを思い出す。思い出すのと同時に、胸に広がるざわめきもよみがえった。 「あの、ここは? 俺、電車に乗って帰ってたと思うんですけど……」 男性と話すために上半身をおこすと、自分のいる部屋の全体が見えるようになり、その結果さらに混乱することとなった。 白を基調とした部屋は俺の住んでいる部屋の何倍も広く豪華だ。アンティーク調のベッド、テーブル、ソファ、クローゼット、家具のどれもが高価な物なのだとわかる。 まるで映画に出てくるような昔のヨーロッパの城みたいだ、とぽかんと口を開けた俺に、ベッドサイドの男性は穏やかな声で話しだした。 「ここはオーウェン様の城でございます。あなたはオーウェン様に運ばれてきたのですが、意識がないようだったので医師である私が診察しておりました」 「城……?」 「気を失ったのは急な環境の変化によるものなので、いま感じている怠さも次第になくなると思います」 「ありがとうございます……」 ここがオーウェンという人物の城であること、体は特に問題ないことがわかり診察してくれたという医師に頭を下げる。 顔を上げた先で何故か目を丸くする医師に驚き、こちらも目を丸くしてしまった。 「こんな城、日本にあったんですね」 日差しと心地良い風を招く窓の外は中庭になっているのか、緑と色鮮やかな花が揺れている。こんなところがあったなんて、と感心している俺に、医師は申し訳無さそうに眉を下げた。 「あなたにとっては残念ですが、ここはニホンという地ではありません」 「え?」 日本じゃない? でも俺はたしかに日本の会社から帰る途中に、日本の電車に乗っていた。 背中がひやりとするような不安が胸の奥から徐々に吹き出してくる。 「あなたはオーウェン様と結ばれるべく、この世界にいらっしゃったのです」 小さな不安が大きな物へと変わったのを感じながら、ごくりと唾を飲み込む。 この世界、ってなんだ? と思いながらも頭のどこかではやっぱり、と確信していた。 電車に乗っていて目が覚めたら森の中、現れた馬に乗った赤い髪の男性、電気を使った照明やテレビのない部屋、日本人とは顔の印象が違う医師。 そのどれもが、自分が生きていたのとは別の時代へのタイムトリップ、もしくは異世界にきてしまったという説明が一番しっくりくるものだった。 質問したいことはたくさんあって、でも上手く言葉がでてこないでいると音を立てて部屋の扉が開かれる。 そこから現れた赤に、俺の視線は奪われてしまった。
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