月明りの下で吸血鬼と共に

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ピッピッピッ。  黄色のヒヨコ時計の針がゆっくりと音を鳴らし回り出す。  彼女の部屋にある窓の鍵をカチッと開け、尖った爪の素足で床に降りた。前には進まず、遠くにいる彼女の寝息を確認する。彼女が寝ている状態で行動に移したいからだ。  確認をしても尚、部屋の中へ素足を踏み入れ、足音さえも出さない。  ここは彼女の寝室で、置かれている物はベッドと勉強机だけといういたってシンプルな部屋だと最初に思った。  彼女が寝ているベッドまで辿り着き、すぅすぅ、と寝息を立てている。彼女はこちらに気付いていないようだった。  ーーーさっさと喰っちまおう。  長居は無用だと思い、彼女の真上に移動し布団が重さで凹む。  彼女に覆い被さり、棘の生えたような歯の並んだ口を開けて彼女を喰おうとした。  けして彼女の命まで血を採取する訳ではなく若干残し、再び食料として使うつもりだった。  なのにその瞬間、先程まで寝ていたであろう彼女が何かの異変に気付いたらしく目をぱっちりと開かせる。  今まで目を覚ました者は居なかった。その為に自分自身も驚いてしまい、彼女との距離を二倍以上離れる。  こちらを見ている彼女は悲鳴を出さずに動じなかった。ただこちらをじーっと見つめるだけで何の反応も示さない。  その彼女の目は紫色に光り輝いていた。彼女自身が明るいという訳でなく月の光に照らされていて、それはとても綺麗だった。  お互いに黙った状態で静かな時が過ぎてゆく。  なのに彼女は吸血鬼などお構いなしに頬を膨らませ、機嫌が悪いと顔で表現した。 「何をしているの」  万が一人間に姿をバレても、怖がるか失神する筈なのだが、この彼女はこちらを受け入れてくる。正に変わった子である。  彼女は続けてこう言った。 『貴方が望むなら僕は死んでも構わない。何時か僕を殺してくれる人を待っていたから』と。
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