月明りの下で吸血鬼と共に

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 吸血鬼は目を見開いたけれど容易く頭を上下に振った。夜中なのに瞼を開けたり閉じたりと交互に動かす度に赤色の目が光を与える。  一度は近付き、離れた距離感。  また一歩ずつ距離を縮めてくる足取りで、吸血鬼が唯織の前に立ちはだかる。  吸血鬼に対して、内心は怯えてしまい隠すように、手を後ろに回して毛布を掴む。  でも、唯織は逃げなかった。生きるより死への選択を望んでいたからかもしれない。  唯織の前に仁王立ちする吸血鬼。ベッドに座り込み、唯織に手を伸ばした。その手は唯織の手ではなくふっくらとした頬を触ってきた。  ヒヤッとさせられる程に氷のような体温だった。  本当に人間じゃないようだ。実際に触った事は無いが死人のような冷たさで、皮膚も薄く骨太い。  唯織は死へのカウントダウンが、もう目の前だと感じた。けして恐怖を表には出さない。  今までの過去が唯織をそうさせたとは思わない。  けれども死を望む唯織にとっては、この世の開放感と共にそっと目を閉じる。  体温が高い唯織の身体を奪い、低温を注ぎ込まれる。吸血鬼も同じように低温を奪われ、その代わりに温かな体温が流れていく。  お互いの体温が一致し、吸血鬼の吐息が首元に当たる感覚を感じた。  吸血鬼は、膝頭でベッドに体重をかけて膝から上は立っている姿勢を保つ。唯織の肩を両手で触り、首元の位置まで顔を近づけた。  そのまま一気にガブッと噛まれ、血を一滴も残さず吸われる。それだけで吸血鬼の食料になるのかもしれない。  まあ、相手は人間ではないけれど誰かの助けになれたのなら良かった。  ーーーさよなら、世界  丸く大きな月が照明となり、女座りをした唯織。  吸血鬼は首元の位置を確認して噛みやすくする為に首を傾げた状態で口を開いた。  尖った歯が首元に当たる感触を唯織は感じた。
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