月明りの下で吸血鬼と共に

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コンコン。  突然、廊下側から部屋のドアを叩く音がした。ハッと空気が一変し、冷や汗が流れる。二人の動作がピタりと止まった。 「お姉ちゃん、開けるよ」  一枚ドアの先には唯織の妹が居るのを知った。小学生というあどけなさが残る高声だ。  妹が夜中に起きているのは不自然だけれど、それよりもドアを開けるのは予想外だった。 「きゃあああああ!」  唯織の身体が動くより先に、妹は悲鳴を上げた。その声で唯織はビクッと身体が震えた。  きっと見知らぬ人物『吸血鬼』が居る事に衝撃を受けたみたいだ。  もし、このまま妹の悲鳴で何事かと親が起きて来たら、唯織の願望は儚くも消えてしまう。それだけは避けたかった。 「ちっ」  唯織の隣で吸血鬼がこちらにも聞こえるように舌打ちをしてきた。  この場を静めさせる為に唯織は妹の所まで駆け寄り、頭撫でて宥めてみる。  その隙に吸血鬼は窓から逃げようとした。  待てっ、と唯織が吸血鬼に言おうしたら妹に袖を掴まれる。反動で吸血鬼から妹に目線を落とした。  妹は袖を離す所か、唯織の身体全身を捕まえた。小学生の握力を越えた、強い力で唯織の動きを止める。  普段の様子とは打って変わって不自然だ。 「っ、痛っ」  唯織は痛みを感じ始めて声が出てしまう。抜け出す力も失い始めた。  このままじゃやばい・・・・・・。  すると吸血鬼が窓の枠を蹴った勢いでこちらに飛び掛かってきた。妹を剥がし妨害をする。 「がぁあああああぁああ」  そのせいで妹が発狂し、さっきとは違う声で叫び出す。 「吸血鬼の毒を塗り込まれたか」 「どういう事なんだ」  吸血鬼が小さく呟き、それを聞き取った唯織は問い詰めた。 「こいつは、もう駄目だ」  唯織の言葉を無視して答える訳でもなく呟きを続ける。  その瞬間、ぐっは、と妹から吐き出す声が聞こえてきた。吸血鬼が妹の腹を勢い良く押した。  壁に向かって思いっ切り飛ばされた妹は動きがピタっと止めた。  吸血鬼は手の甲でおでこを拭く。  隣に意識不明の妹。  吸血鬼がまた逃げ出す前に唯織は逃すまいとこう言った。 「待て、僕を連れて行ってくれ」と。  その言葉通りに吸血鬼は月明りの下で唯織を攫った。
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