蛹は壊れた

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蛹は壊れた

今日は朝から雨が降っていたから、道には水たまりが点在している。少し湿った空気、少し濡れた折り畳み傘を手に持ち、少し濡れたスニーカーの紐が、少し緩くなっていた。 高校生が普段学校に履いていく靴といえばローファーだけど、自分はあまりかかとの高い靴を履けない。前に一度だけ履いた事はあるけど、靴擦れをしてしばらく生活に難儀した。 自分は部活動などには通っていないから、いつもこのスニーカー一足で外を出歩いている。部活をしているクラスメイトは、大概部活用の靴と通学用の靴を持っているけど、自分はカバンの中に、使った靴を入れる事に抵抗がある。そうゆうクラスメイトは普通の学校用のカバンではなく、スポーツバックを背負っているけど、自分は靴もカバンも今持っている一つしかない。 自分の運動神経は人並み、芸術的な才能も凡人並み。そもそも勉強だけで疲れてしまう自分に、部活をする元気なんてない。だから中学校の頃から自分は、ずっと帰宅部に所属している。 自分の名前は戸々木 凛(ととぎ りん)。今大学受験を控えている、高校三年生。もうすぐ夏休みではあるけど、自分は夏期講習や塾の予定ばかりで、友人と遊ぶ日は指折り程度。でも決して、友達がいないわけではないからまだマシではある。 その友達も殆どが帰宅部。部活に入っている友達は、夏休み中でも部活でスケジュールがみっちりと埋め尽くされて、部活が休みの日には塾などに行かなければならない。 自分にはそこまで何かに熱中できるものはないけど、せめて大学だけでも良い所に行きたくて、塾を掛け持ちして勉強を頑張っている。元々勉強はあまり嫌いではなかったから、模試や実力テストでも上位に入っている。 「ただいま。」 「おかえりー。  貰い物のメロンがあるんだけど、食べる?」 「うん、じゃあ部屋まで持って来て。  これから明日の授業の予習しなくちゃいけないから。」 自分の部屋は二階にある、二階は自分の部屋と物置、そしてトイレしかない。兄弟もいないから、家の方が静かで勉強に集中できる。学校だとどうしても気の散る箇所がいくつも目にとまるから、勉強はできてもしっかり覚えられたか不安になる。 本棚と机、ベッドだけのシンプルな部屋だけど、それでもやっぱり自分の部屋に来ると急に落ち着く。でも本当に心から落ち着ける最大の要因は、自分の家だからではなく、『今目の前に居る存在』のおかげ。
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