隈なき月が照らすとき

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隈なき月が照らすとき

 樹が学校に通うのをやめてから3ヶ月が過ぎ、2学期も終わりを迎え始めた。学年主任の中西が再びマンションを訪れていた。 「今日は、お1人なんですか?」 「ええ。今日は私1人で参りました」  中西が穏やかな表情でそう答える。日が落ちるのはすっかり早くなり、窓の外には雲ひとつない空にみずがめ座がビカビカと輝いている。 「今日は本当にいい天気ですな。さっき来るとき東の空に満月がくっきりと浮かんでいましたよ」  中西は出されたお茶に一口つけると、敦にそう語りかける。 「それで、本日はどういったご用件で?」 「そろそろ、登校をお考えになってもいいのでは?と思いまして」 「それについては、お断りを致します」 「担任が変わったとしてもですか?」  中西の言葉を受けて、敦の目元が動いた。 「金沢は、2学期終了後に担任を外れ、指導力不足教員研修を受講することになりました」 「そうなんですか?」  敦が思わず声を上げると、中西は深く頷いた。 「お父様の働きかけで警察が動き、学校に調査が入ったことはご存知かと思います。その際に金沢が去年担任を受け持っていたクラスでもいじめがあったことがしまして、裁判沙汰になりかけたんです。市の方が和解を申し込み、成立する見込みではありますが」 「なるほど、それで現場から離れると……」  金沢の顔を頭の中に思い浮かべながら、敦は納得の表情を見せた。 「なお、今回主に樹さんをいじめた水沢さんもその件に関わっていたとのことで、児童相談所へと通告されました。親御さんの意向で、転校される予定とのことです」 「確かPTAの会長でしたよね?水沢さんのお母様は」 「はい。まぁ詳しい事情はわかりませんが。ただ1つだけ言えるのは、以前とは大きく環境が変わる、ということです」  中西はそう告げると、窓の外に再び視線を遣った。東の空には隈なき満月がぽっかりと浮かんでいる。 「時間が経てば、環境も変わる。環境が変われば、見え方も変わる。どうでしょう?再チャレンジしてみては」 「再チャレンジ、ですか……」 「はい。再チャレンジです」  中西はそう力強く告げた。
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