セルライト伝説

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 カップラーメンが出来上がる三分は途方もなく長いくせに、  セーラーポークを観ている三分間は途轍もなく短い。 「あー、今日も面白かったな」  本能のごとく食べ続ける彼女の前に、細身のイケメンが遂に登場。  一秒で恋に落ちてしまった憑野うなぎは、イケメンとの恋を成就させることができるのかーー。 「さてと、ちょっとコンビニにでも行こうかな」  憑野うなぎがあんなにも美味しそうに貪るから、こちらまでお腹がへってきてしまった。    常人なら徒歩五分で済む距離を、今宵も徒歩十分を費やして移動する。  やれやれ、こうやって歩いているにもかかわらず、なんで痩せないのだろう。  ペヤングにはキャベツがあるし、  ポテトチップスはジャガイモだし、  牛丼には玉ねぎがあるし、  ピザにはトマトがあるし、  ハンバーガーにはレタスがあるし、  寿司は生魚だ。  ヘルシーな食材ばかり食べているはずなのに、どうして一向に痩せないのだろう。  憑野うなぎの気持ちが、僕にはよく分かる。  世の中は不公平だ。  大食いチャンピオンが細身の人ばかりなのはどうしてなのだろう。そんなことをされては、デブの立場がないではないか。  今宵は満月。  熱帯夜特有の風が、僕の肥えた身体をいじめぬく。  既に二分は歩いている。  身体中の至るところから汗が吹き出し、砂漠をさまよっているような感覚に襲われた頃、僕は『彼女』に出会った。  汗で視界が滲み、  空腹で頭はクラクラするが、見間違えるはずもない。  豊潤な月明かりが照らす、  豊満なあのシルエットは、『憑野うなぎ』そのものだ。  自販機の前で、ダイエットコーラをがぶ飲みしている。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加