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「はぁはぁ、あの、
はぁはぁ、もしかして、
はぁはぁ、憑野うなぎさん、
はぁはぁ、ですか?」
息も絶え絶えに『彼女』に問いかけた僕は、呼吸を整えながら『彼女』の返答を待つ。
空っぽになったペットボトルをゴミ箱に捨てると、『彼女』は答えた。
「月が変わって、リバウンドよ!」
そ、その台詞は、
セーラーポークの、決め台詞!
やはり間違いない。
彼女こそが、憑野うなぎだ。
真夏の夜空に陣取る丸い月が、彼女の醜さと美しさに彩られた真実を、余すことなく照らしている。
まるで、テレビからそっくりごっそり抜け出てきたかのような、圧倒的な質量と臨場感に、僕は汗にまみれた陶酔を覚える。
「あなた、憑野うなぎに逢いにきたの?」
「いえ、そういうわけでは。ちょっと、そこのコンビニに夜食をーー」
「でも、あなた今にも死にそうじゃない。コンビニに行く前に、そこの自販機で水分補給した方がいいわよ」
「ええ、そうさせてもらいます」
僕は財布から百五十円を取り出すと、ファンタオレンジのボタンを押した。水分も大事だが、ビタミンも摂取しなければ。
渇いた身体に、冷たさと炭酸が弾けとんでいく。
嗚呼、美味い。
生きていることを実感する。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
憑野うなぎが言う。
「え? 行くって、どこへ?」
「コンビニに決まってるでしょ。今ならそこに、たくさんの憑野うなぎがいるわ」
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