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「お前、ほんと馬鹿だったよな」
彼が、いじめを解決するためだけに命を捨てたことを知ったのは――小学校を卒業してから、かなりの月日が流れた後だった。
有給休暇を取ってやってきた群馬県の墓地の前。俺は汗をぬぐいつつ彼の家の墓に手を合わせ、唇を噛み締めるのである。
「本当に馬鹿だったよ。……なんでそんなに頭いいのに、自分が死ぬことでみんなが傷つくってことに、気づかないで逝っちまうのかね」
彼の告発文は、出回る前に警察に見つかり――差し止められてしまっていた。
そして市川美亜は何故か、彼が自殺してからしばらくした後、同じく電車の事故に遭い――両目と利き腕、下半身の自由を失ったのである。それが、果たして最後の最期で港が仕掛けた呪いのようなものであったのか、は今でもわからない。確かなのは最終的に市川美亜が学校に来られなくなったことで、彼女による小学校でのいじめだけは収束させることができたということだけである。
「……そんなことするくらいなら、市川美亜を殴ってでも……それこそ暴力で止めたって、そのほうが全然マシだったのにさ。お前が、そうやって死んじまうくらいなら」
蝉時雨の中、虚しい呟きは溶けていく。
未だに本当の答えなど誰にもわからない。学校の問題も、いじめの問題も、根絶するにはどうすればいいかなど。
ただ一つ確かなことは。此処に一人、彼のことを確かに覚えていて、教育委員会で働くことを決めた人間がいるということだけである。
「俺は生きて探すよ。生きてる限り探してやる。……俺はお前のように、一つだけの答えで満足したりしねぇから」
何も変わらなくても、何かを変えるための努力ならきっとできるのだ。
そのちっぽけな力がやがて、大きな変革を齎すこともあるように。
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