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冬は日が暮れるのが早い。
田舎の田んぼ道を、月と自転車のライトだけが照らす。いつ壊れてもおかしくないぐらいに乗り潰した自転車は、ギィギィと音を立てて僕と彼女の不自然な間を埋めてくれる。
そっと隣の彼女を見る。冷気で頬と鼻を赤く染めながら星を見上げる彼女の横顔は、透き通っていて美しい。
部活が終わってようやく家に帰れると校門を抜けた時、ちょこんと座る彼女を見つけてとても驚いた。僕を見てへらりと笑う彼女に「なんでこんなところにいるの?」と問いかければ「一緒に帰ろうと思って。」なんて。
可愛すぎて思わず抱きしめそうになるのを堪えるのが大変だった。
「もう待ってなくてもいいからね。」
僕のマフラーと手袋をつけていても寒そうな彼女は不思議そうにこちらを見てくる。
「付き合ってるのに一緒に帰らないの?」
可愛い。可愛いんだけど、僕はどう言えばいいのか悩んだ。
本当に彼女は不思議で、いつも何を考えているのかわからなくて。誰と仲良くするわけでもなく1人でいた彼女がなんで僕なんかと付き合ってくれたのか……あれから3日ほど経つが、やっぱりよく分からない。
そもそも女子と話すのが苦手な僕に、気の利いた言葉なんて言えるはずもないので考えるのをやめた。
また星を見始めた彼女の姿に夏目漱石の話を思い出した。
「こ、今夜は…月が綺麗ですね……///」
ポロリと口からこぼれた。
「──!……今夜は曇っていて、月なんて見えませんよ?」
少し驚いたようにこちらを見た彼女は、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう答える。
「…!?(涙目)」
知ってる。。。これはあれだ、告白をお断りする時に言うやつだ………。
あぁ、もう何で…!普段はこんなこと恥ずかしくて言えないのに、きっと満月と夏目漱石のせいだ───
「だけど……今夜の月は、私も綺麗だと思いますよ。」
顔を上げた僕の目に映ったのは、楽しそうな彼女の笑顔だった。
なんだか月にからかわれたみたいな気持ちになったけど
幸せだからまぁいっか。
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