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この時期、教室の窓から入る風は暑くもないが涼しくもない。
頬杖をついたまま、窓の外の遠い雲を、ほどよい意識の中、保波 理沙は、
追いかけていた。
そう、先日の、あの不可思議なものと遭遇してしまった夜を。
そうだ、私は確かに危なかった。もう少しで、取り返しもつかないこと
に巻き込まれそうだった。
その日は午後の講義も受けないと、単位をとりそこねるやつがあった。
遅番の延長は嫌だったけど、バイト先も人手が足りてないらしく。
理沙が遅番を一時間半、遅れる分を遅番の舘野さんが、いつもより少し早
く出勤してカバーしてくれていた。
しかし、彼の体調が悪いとかで。結局、遅れて理沙が入ったのち。
普段より一時間半早く、彼はあがった。
「ごめんね、保波さん。迷惑かけるね。」
ただでさえ細身で、もやしを通りこして、髪型も含めてエノキみたいな色
白の舘野の顔は、もはや蒼白く。
「体調悪いのに早くまで出勤してもらって。お疲れ様です」
彼の悲壮感に、ただただ申し訳なく、理沙は頭を下げた。
人手も不足している昨今、バイト先に決めた大手24時間チェーンのコン
ビニ「エレブンマート」は、人手不足どころか。
店長の身内と理沙と舘野さん、それにフィリピン人のマーレさんを含めて
も人材的に厳しかったのだが。
近頃、急にマーレさんが日本人の旦那さんと離婚の危機とかで。
「フィリピンの実家に来月カラ、スコシ、カエリマス」
と、店長のとりつくしまも与えず、シフト休みを出して消えてしまった。
そこで、学生である理沙とフリーターである舘野さんとで、店長の負担
の半分をさらに分けることになったのだが。
元々体が強い方でもない舘野さんに無理がたたり、体調をくずしたのが、
アルバイト先の状況だ。
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