月夜の変態紳士、白見さん。

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キーンと耳鳴りがして瞼が重くなってきた。薄れゆく意識の中、別の 声が聞こえた。もうひとり、いたのかもしれない。  それは、とても低くて静かで力強い声だった。まるで呪文のように。 「シンシハ、シンシラシク。シュクジョハ、シュクジョラシク、アレ」  キーンコーン・カーンコーン…キーンコーン・カーンコーン。 終業ベルの音で、理沙は我にかえった。 生徒が次々と席を立ってゆく、講師はそそくさと白板を消しながら、 道具をまとめている。理沙もゆっくりと席を立つ。  首を少しでも動かすと、後頭部にかけて重い痛みがある。病院で診て もらった分では打撲らしい。 あの夜のあとから、対人恐怖症までもないが、隣に人が、とくに男性の 声が近くですると、無意識に体が強ばっている感覚がある。  理沙は他の学生達が学食や購買部へ向かう波を横切り、外門に向かっ て歩き出していた。 これから、駅前の交番に向かわなければいけない。あの夜、気づくと自 分は、病院のベッドだった。看護士と婦人警官が、見守り、簡単に現状 を説明してくれた。  そのあと、実家の両親とも電話で話した。理沙は、九州の片田舎から 上京し、ひとり暮らしをしていた。 警察から連絡を受けた両親は、さぞ心配したことだろう。電話口で、と くに母は涙声だった。  婦人警官と一緒にいた男性の警察官は田中と名乗った。 最初に連絡を受け、現場に急行した人らしく、連絡は公園そばのマンシ ョンの管理人からあったという。 田中が現場に着いたとき、理沙は公園中央の芝生で倒れていたらしく、 タオルケットで覆われていたそうだ。 管理人が衣服の乱れを見て、かけてくれたらしい。 そして、理沙が一瞬だけど、顔を見た男は麻のロープで不思議な縛られ 方をして、衣服も所々、ボロボロで口元も一部分がふさがれていたらし い。  管理人は、理沙が暗がりの公園に入って行く姿と、そのあとに入る男 性を目撃し。変な声を聞いて、警察に連絡後。理沙を発見したらしく。 つまり、あの夜、理沙が意識を失った直後、何かがあったらしい。 被害者の理沙が少し回復したことで、話を聞きたい、というのが田中を 含め、警察の要望だった。
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