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あの事件のあと、警察からバイト先に連絡があっていたらしく。
舘野店長にバイトをしばらく休ませてほしいと連絡したときには、いた
く心配とひたすら謝罪を受けた。
「保波さん、良かった。動けるようになったんだね?ああ、本当にキ
ミには申し訳ないことをしてしまった。あの夜、僕が遅く帰さなければ」
電話の向こう、まるで泣きそうに猛省する舘野が浮かぶ。
「いえ、私が公園を横切ろうとしたのが悪かったんです。店長のせ
いじゃないです」
「いやいやいや、警察から聞いているだろう?キミを襲った男のこと」
…私を襲った男のこと?店長が、なんで?
「あの客のこと、僕は何となくだったけど。他のスタッフは、うすう
す感じていたらしいんだ。確信は持てなかったらしいけど」
「確信?何ですか、それ」私は頭に一瞬浮かぶ、あの夜の男の顔の記憶
が断片的に出てきた。また、頭痛がする。
「確か…、僕がカップル客の変なクレームを対応していたときだ。
あの男は、そのときも居たんだ。キミを見ながら、キミのレジが再開さ
れると、小走りで駆け寄っていったよ。サラリーマン風の男だ」
…ああ!…そうか、あの人だ。…そうか。理沙の記憶は、見えない火花
を目の前でショートさせ、あの夜の男と重なりあった。
駅前の交番に着くと、あの時の婦人警官が付き添いながら、田中が調
書をすすめた。
ひとしきり、あの夜のことをバイト時のあたりから、意識がなくなった
ところまでを話す。何度か同じようなことも聞かれたが、理沙は、それ
以上のこたえを持っていなかった。
田中は調書をまとめる間、加害者の話をした。
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