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うちひしがれる美緒に、
「大事なことを話せるような関係には、まだなれてないかな、俺たち」
壁を作り始めた当の本人から問われ、
「大事なことは、話してますっ」
美緒は噛み付いてしまう。
「私にとって大事なことは、困ってることじゃない。和久くんを好きな気持ちです」
「……そ、っか」
それだけ呟き、和久は口を閉ざした。
俺も好きだよ、とは、言ってくれない様子だ。
アクセルのタイミングを間違えたことが悔やまれる。
それでも、今さらブレーキを踏み込んで止まる選択など、美緒にはなかった。
「月の妖精は肉食なんですよ、和久くん」
宣言して、立ち上がる。
和久の真正面に仁王立ちして、座ったままの和久を見下ろして睨み付けた。
月を背にした為、自分が影になって和久の表情が暗くなり、美緒には見づらい。
自分を見下すような白い目をこんな間近で受け止めることにならずに済んだことは、美緒にとって幸運だったろう。
しかし美緒は美緒で、和久に対して憤っていた。
「獲物をむざむざ逃がすつもりはありません。覚悟、してくださいね」
「何の覚悟?」
「全てを、私に捧げる覚悟です」
「ぶはっ」
和久は吹き出した後、へにゃりと笑って、恐いなぁと溢す。そして、
「秘密を作るような相手に捧げる覚悟はないよ」
緩やかに笑ったまま、突き刺すように言い放った。
「関係の構築に秘密が不可欠なら、そんな歪んだ関係は俺には不要だ」
微笑んだままの容赦ない両断が、とてつもなく冷酷に響き、美緒を震わせた。
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