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月光は厳然として降り注ぎ、その静かな強さでもって照らしたものを確実に暴き出す。
いや、神々しい光が誇張しているのは、照らされて明るみに出た表層でなく、その裏で闇を深める影の存在感だ。
美緒の邪な魂胆も、自己中心的に歪んだ根性も、和久に認識されてしまった。
頼りなくも優しかった和久の笑顔に隠された、彼の譲れない指標は、気高く侵しがたい月光の威圧感を放っている。
そこに、交渉の余地を見出だすことは美緒には難しかった。
それでも、
「和久くんに私が不要でも、私には和久くんが必要です」
美緒の目からも光は消えない。美緒だって、譲れなかった。
「美緒ちゃんが不要だって言ってる訳じゃない」
「私も、和久くんとの関係に秘密が必要だなんて言ってないです。和久くんが私を好きになってくれたら、打ち明けます」
「……好きだよ」
「そんなんじゃ足りない」
美緒のぞんざいなツッコミに、
「ぇぇえぇぇ」
気の抜けた和久の声が被さった。
これだけで、美緒は泣きたくなるほど安堵してしまう。和久を取り戻した気がした。
それが、強気な口調を後押しする。
「ちょっとした好意を小さな声で呟かれたって、納得なんかできません」
「……美緒ちゃんの気持ちだって、その程度の表明だったよね?」
確かにその通りだ。
「和久くんは、どうすれば納得できますか?」
右の眉を上げて、驚きを軽く顔に出した和久は、少し考えて口を開いた。
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