おもかげ 4

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おもかげ 4

 ――織江、織江はどこ?  広い家の中を、わたしはあの子の姿を求めて駆け回った。家中の部屋をあらかた探し尽くしたわたしは、気づくとほとんど使われていない父の書斎の前にいた。  ――まさかこんなところに隠れてたりは、しないわよね。  駄目元で、わたしは扉の取っ手に手をかけた。すると扉は難なく開き、中の様子が露わになった。  なんなの、これ?  目の前に広がった光景にわたしは言葉を失い、立ち尽くした。主のいない書斎で、見えない手で操られているかのように複数のパソコンが忙しなく動作していた。  わたしは中に足を踏み入れると扉を閉め、大型ディスプレイの一つに近づいた。画面上には病院の内部と思しき風景が映し出され、数十秒ほどの間隔で映像が切り替わっていた。    どこの病院かしら。お父さんの勤務先?……でも  やがて映像が手術室らしき風景に変わり、複数の執刀医らしき人物が映し出された。  映像が進み、施術台と横たえられた人物とが大写しになっ瞬間、わたしは叫んでいた。  織江!……これはいったい、どういうこと?  わたしが声にならない叫びを上げた瞬間、織江の薄く見開かれた目とわたしのそれがぶつかった。  ――逃げて、安奈。  織江のわずかに開いた唇が、そう告げたように見えた。  逃げてって……どういうこと? ――あなたを死なせたくないの。お願い、早くその家から逃げて!  なぜ、どうして、とわたしが伝わるはずのない問いかけを続けざまに発した、その時だった。複数の足音が廊下をやって来る気配があった。わたしはディスプレイに背を向けると、廊下に飛びだした。  廊下で私を待ち受けていたのは、黒いスーツに身を包んだ三人の男たちだった。わたしと男たちはしばしその場で睨み合い、やがて一人の唇が「なぜ気づいたんだ?」という形に動いた。後ずさろうと身体をよじった瞬間わたしは激しく咳き込み、その場に蹲った。  男たちは発作をなだめようと必死のわたしに歩み寄ると、腕を掴んで自由を奪った。 「眠らせた方がいいい。暴れられては手間が増える」  低い声が耳元で聞こえたかと思うと、ペン先のような尖った物が首筋に押し当てられた。  織江、この人たちは誰?いったいわたしたちに何が起きているの?  次第に朦朧としてゆく意識の中で、わたしは同じ問いかけを何度となく繰り返した。
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