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「みのりん」
空になったカキ氷の容器を潰れないように握った俺は、決心した。
硬い俺の声に、みのりんもぎこちなく顔を上げる。
今夜は月が明るい。
この柔らかな光が優しい雰囲気を作って、まるでスポットライトみたいに照らしてくれている。
でも今は舞台で演じるんじゃない。
本当の俺に、正直でありたいんだ。
「好きだよ」
想いは伝えなきゃ意味ない。
こんなチャンスは二度と来ないんだ。
目を丸くして驚きながら、みのりんは真っ赤になった。額から流れた汗が顔の横を流れて首筋を伝い、浴衣の中に消えていった。
草むらの中から、夏の匂いが運ばれてきて、その中に虫の声が聞こえる。
緊張で張ってしまった彼女の糸は、俺が笑うと少し緩んだ。
「いいんだ、俺を選ばなくて。でも言っておきたかった」
「せ、先輩……」
「ごめんね。俺優しくないね。言うと困らせるの、分かってたんだけど」
泣きそうなみのりんの顔。やっぱり伝えたのは俺のエゴでしかなかった。けど、自分に嘘はつきたくなかった。
自分一人でスッキリした俺は、勇気を出した自分が誇らしかった。
石垣から立ち上がると、みのりんの遠慮がちな瞳がこっちを向いた。
「帰ろっか」
「え……でも、花火は?」
おずおず尋ねる彼女に、俺はニカッと笑ってみせた。
「ごめん。本当は明日。二人きりになろうと思って」
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