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少しの息抜きのつもりが、俺は座って50球もの速球を受けた。ミット越しのボールの痛さが嬉しい。結局2時間はボール遊びをして、夕暮れの中俺と千葉は校門を出た。
「千葉と柏田はスカウト来るかもな」
自転車を押しながらぼやく俺に、相手はチッと舌打ちした。
「期待なんかさせんな。こなかった時ガッカリすんだろ」
下顎を突き出す千葉に、そうだな、と頷く。それを見越してコイツも受験勉強してるわけだけど……。
でも、きっと来るよ。
千葉の剛速球。150キロを超えるストレートを打てる打者なんて、少ないし。一緒に磨いてきたスライダーとチェンジアップも相当キレてた。
そしてうちの強打者柏田。飛んできたボールは全部仕留めて、トーナメント後半はほぼ敬遠された。悔しそうにファーストに向かう姿が目に焼き付いてる。
決勝に進めなかったのは、残りの俺たちが点を取れなかったからだ。それでも二人は十分に注目を浴びた。
コイツらに比べて、俺は……。
「西木」
千葉に呼ばれ、自転車を押しながらショボくれていた俺は顔を上げた。
「終わったんだな。本当に」
夕陽を見つめる千葉の目はぼんやりとしていて、さっきボールを放っていた時の目の輝きは無くなっていた。多分、俺も普段はこんな顔してるんだろうな。
でも千葉を励ますのがもう習慣になってしまった俺は、出来るだけ明るい笑顔を向けた。
「これからだよ」
俺の言葉に、千葉は意外そうな視線を向けてきた。
「お前は、これからだ。大丈夫、俺が保証する」
確信を瞳に込めてまっすぐ見つめると、千葉は破顔した。
「西木に保証されてもなあ」
「大丈夫だって。俺を信じろ」
すると千葉は今度は困ったように笑った。
「お前が言うと……そうなる気がするのはなんでだろうな」
そんなの、決まってんじゃん。
「ずっと俺のサインを信じてきたからだよ」
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