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お前の能力を信じてるって前提でサインを出す。キャッチャーってのはそういうもんだ。
千葉とタッグを組んで一年。長くはないけど一緒にやってきた。
まあ、コイツが力を出せたのは俺だけのお陰じゃないけど。
「みのりんと、会ってんのか?」
俺の突然の質問に、千葉は足を止めて真っ赤になった。その直後、眉間と鼻にしわを寄せて口を尖らせる。俺たちはどちらからともなく再び歩きだした。
「会ってねーよ。アイツ、8月末まで忙しいんだと」
「8月末?」
「ああ。断り文句だよ。会いたくねーってことだろ」
「そうかなあ」
夕焼け空を見上げて呟いた俺は、ちらりと千葉を盗み見た。寂しそうな横顔。振られたと思ってるんだろうな。
『みのりん』は俺たち野球部のマネージャーだ。
俺たち野球部員、実はみんな彼女が好きだ。
俺とキャプテンと監督は、相手チームを解析したみのりんの記録ノートを元によく話し合った。一生懸命に俺たちを支えて、冷たいおしぼりやスポーツドリンクを準備してくれた。洗濯してパンツまで畳んでもらった。むしろもう『お母さん』だ。
パッと華やかなタイプじゃないし、動きも鈍いけれど、みのりんの健気なところにみんな惹かれたんだと思う。
「西木はどうなんだよ」
千葉の質問にハッと我に返り、ぽかんとして相手を見ると「なんだ、その顔」と眉根を寄せた。
「お前みのりのこと、どう思ってんだよ」
「どうって……」
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