夏祭り

5/7
前へ
/14ページ
次へ
「西木は優しいよな」 自分は思い遣りの塊のくせに、キャプテンの菅野(すがの)もそう言う。 「西木の優しさに甘えるなよ」 やつらの自分勝手な奔放さに困っていた時、そう言ってくれたのは、みんなを陰で支えてくれるレフトの服部。 「俺が胸張って補欠やれてるのは西木のおかげ」 控えピッチャーの橘。あまり出番はないけど、週に二回必ずあいつのボールを受ける。 球が鈍らないように無理やり投げさせてるのに、ありがとうと言われた。 「俺だって、24時間365日元気な訳じゃねえし。いいじゃん、時々優しくない西木も」 うちのムードメーカー竹村が、俺をからかうように笑った。 「犠牲にするなよ、自分の想いまで」 親の仕事手伝うために野球を辞めようとした時には、幼馴染みでライトを守る平原が言った。 「優しいのはいいけどさ。それで自分がつまんなかったら、意味ねーじゃん?」 「西っちの優しさって、大っきいよな」 強打者の柏田だって、プレッシャー感じない訳じゃない。打てなくたっていいよ、と言うと、柏田はそう言ってホッとしたように息を吐いた。 「言いたいこと言え! お前が言わなくて俺が打たれたらどうすんだよ」 長年のキャッチャーやってる俺とバッテリー組むことになった新米ピッチャー千葉。 「勘違いすんなよ。そんなの、優しさじゃねーぞ!」 じゃあ言うけど……って、本当のこと言うと、陰でめっちゃ落ち込んでたくせに。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加