夏祭り

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夏祭り

俺の家は、学校から自転車(チャリ)で1時間半。毎日体力づくりのためにチャリ通学だ。 今日は時間の縛りもないので、別の道を通ってみた。 「あれ? なんだ?」 夕方なのに人がちらほら歩いている。同じ方向に向かっているみたいだ。走る速度を落として様子を見てみると、広い空き地に屋台が並んでいた。 カキ氷や焼きそば、綿あめやリンゴ飴、金魚すくい、ダーツなどの店がズラリ。屋台の屋根にはそれぞれ赤い提灯が付いていた。 なんだか懐かしい光景だった。俺がガキの時も毎年こういうのやっていたような気がする。 「ああぁっ!」 後ろから女の子の声が聞こえた。それも聞きなれた声。 振り返ると、涼しげな水色に淡いピンクの朝顔柄の浴衣を着た『みのりん』が俺を見てぽかんとしている。 「可愛い」 うっかり、感想がだだ漏れてしまった。みのりんは俯いて、そこで売っているリンゴ飴のような顔になった。そんな顔見たら、俺は自分の容姿が「下の中」くらいであることさえ忘れてしまう。 自転車をバックさせてみのりんのそばに寄ると、いつものようにポンと頭に手を置いた。 「家、近いんか?」 「は、ハイ! 西木先輩もこの辺なんですか?」 「うんにゃ。通りすがり。今日学校のグラウンドで千葉と遊んでたから、その帰り」 『千葉』の名前が出てくると、途端に切ない顔になった。その僅かな変化に、胸が錐で突かれたみたいに痛い。
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