第二章:ミカエル×アップルパイ

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第二章:ミカエル×アップルパイ

「詩恵ーっ! 帰ろうー?」  ホームルーム終わりのチャイムと同時。来花はカバンを背負うように持って、帰る準備万端みたい。  でも、私はまだ帰るわけにはいかない。 「ごめん、今日は先に帰ってて!」 「あれれ? 今日はバイトの日じゃなかったよね、どしたの?」  来花が首を傾げる。  寡隠堂でのバイトは火・木・土曜日の放課後で、確かに月曜日の今日は休みだ。  でも、一緒に帰れない理由は他にもあって。 「今日は掃除当番だから!」 「掃除当番……って、詩恵の班の担当って屋上でしょ? どうせすぐに土埃積もっちゃうんだから、掃除してもしなくても変わんないよ!」  来花の言うとおり、一応当番は決まっているけど、屋上掃除はサボれる掃除の代表格だ。  現に私以外の同じ班の人はみんな帰っちゃってるんだけど……。 「もしかして、ダイエットの運動代わりに掃除するつもり?」  訊かれて私は、恥ずかしいけれど頷いた。  だってだって!  ダイエットのためにバイトまではじめたのに、まかないがおいしすぎるんだもん!  いくら低カロリーっていったって、食べ過ぎれば当然体重は変わらない――というか。むしろ〇・二キロぐらい、太ったかな……。 「前も言ったけど、そこまでがんばって痩せることもないんじゃないの? 平均ちょっと超えたぐらいで、不健康とかじゃないんだしさ」  来花は私の二の腕をぷにぷにと触ってくる。  そんなに太ってないって意味のつもりみたいだけど、私は胴回りのほうが太りやすいから、あんまり二の腕でやって見せられても意味ないかも。 「うーん。でも、一度決めたことだから! やっぱり最後までやり通したいかな」 「詩恵ってそんな真面目ちゃんだっけ? どうしたの?」  来花がじーっと私の顔を覗き込む。  不思議に思うのも無理ないよね。高校入学してからの友達だから、まだ知り合って一ヶ月してないんだけど、私の性格はもうよくわかってるみたいだし。 「なんていうかさ、バ先の店長がずーっと同じ目標に向けてがんばってる人でさ。そういうの週三で見てたら、ダイエットごときで簡単にあきらめるの、罪悪感あって」  できるだけ肝心のところはぼかして、私は言った。  あんまり敬虔じゃないとはいえ、来花だってクリスチャンだ。本当のことを言ったらきっと心配される、場合によっては怒られる。 「詩恵のバ先って個人経営の飲食系だったっけ? 店長さんの目標って、チェーン展開とか?」 「うーん、そういう経営系じゃなくて、もうちょっと職人系のアレ」 「へえ。イマドキそういう人って珍しいね」 「そうかな……?」  不老不死のカインさんは、少なくとも『イマドキ』の人ではないんだけど、言ってもしょうがないか。 「じゃあ、掃除行ってくるね!」 「オッケー。また夜にドラマの感想でもLINEするねー」  そんなふうに来花と別れて、私は階段を一段とばしで駆け上がった。  四階建ての校舎を一階から屋上まで上るのは結構大変で、『生徒はやむを得ない場合を除きエレベーターを使ってはならない』という校則はクソ校則として話題だ。  でも、ダイエット中の私にはかえって好都合かな。
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