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「まったく、詩恵のせいで私まで恥かいちゃったじゃん」
下校中、来花が肘鉄をかました。
それに対して、私はオーバーにむくれてみせる。
「そんなこと言ったって、聖書の授業なんて誰も聞いてないしさー」
「あー……それは、まあ。否定はできないけど」
聖智学院はミッション系といっても、クリスチャン生徒の割合は一割もいかない。
私も高校入るまで、まったく宗教なんて意識したことなかったし。
クリスマスにケーキ食べて、大晦日に除夜の鐘を聞いて、お正月には神社に行く。そんな普通の日本人的生活をしている。
数年前に亡くなったお父さんは樹木葬だったから、家の宗教を訊かれたら、無宗教ってことになるのかな、たぶん。
「でも、だからって当てられるときくらいはちゃんと――」「だいたい今日の範囲、全然意味わかんなかったし!」
私はうんと伸びをして、授業内容に八つ当たりした。聞いてなかった自分が悪いのは、百も承知ですよーだ。
「ええ? 創世記って聖書の中ではわかりやすい方だと思うけど。ストーリーになってるし」
そう言う来花は、聖智学院で一割もいかないクリスチャンのほうに含まれるらしい。
日曜礼拝もサボりがちみたいだし、『敬虔』とはいかないようだけど。
「だからさ、そのストーリーがよくわかんないの!」
罰当たりって怒られそうだけど、私の愚痴は止まらない。
今日の範囲、創世記第四章は大体こんな話だ。
神様が最初に造った人間の夫婦、アダムとイブには、カインとアベルという二人の息子がいた。
あるとき二人は、神様にお供え物をした。カインは自分の畑で取れた作物を、アベルは自分が育てた家畜を。
でも、なんと神様はアベルのお供え物しか受け取らなかったの!
カインはこれが原因で、弟アベルを殺してしまう。
神様は罰として、カインが土地を耕しても作物を得ることのできないようにして、カインを追放した。
追放された先で迫害されたりしないように、カインに何か危害を加えた人には七倍の復讐があるようにしたらしいんだけど――。
「まずさぁ、肉と野菜があって肉のほうしか食べなくてオーケーってのがわかんなくない? 神様が好き嫌いしていいのか的な? やっぱり栄養バランスとか大事じゃない?」
「うーん、そこは確かに、理由とか書いてないしねぇ。カインの供え物のほうが手抜きだったとか?」
来花はあいまいに答える。
「だからってさぁ――日本昔話だったら、このあともったいないお化けが出るよ!」
「もったいないお化け出てどうするの!? 神様と戦うの!? ゴジラ対モスラ的な!?」
「あ、それ面白そう!」
神様対もったいないお化けの映画ポスターを想像して、私は思わず吹き出した。 笑ったらやっと怒られた気持ちが軽くなった気がする。
「そういえば、なんで今日はあんなにぼーっとしてたの? 三時間目の現国の教科書出しっぱなしって、よっぽどじゃん」
サンロードのアーケード街に差し掛かったあたりで来花に訊かれて、軽くなった気持ちがまた重くなる。
BMI二十二・一。
「あああ、ダイエットしないとなぁ」
「健康診断の結果で落ち込んでたんだ」
なんて、来花はちょっと呆れ顔。
「そりゃあ、来花はめちゃくちゃスタイルいいから関係ないかもしれないけど、私にとっては一大事なんだから! ただでさえ背が低いのに、これで体重まで重いとなるとさー」
もう、こうなったらなんとしてでも痩せて見返してやる!
さっそく今日のお昼から少なめにしてもらわないと。
私はお母さんに連絡しようとスマホを取り出した。
「あれ、お母さんから着信がある。なんだろ――」
LINEを開いて、私はがっくりした。
『午前中の用事が長引いちゃったから、今日はお昼どこかで食べてきてね』
外食はカロリー高いのに……外食はカロリー高いのに……。
どうしてダイエット初日にこうなるの!?
「――私、神様に嫌われてる気がする」
私はサンロードのど真ん中で肩を落とした。
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