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「そんな俺に神様が俺に与えた呪いは、『受けた傷を七倍にして返す』『耕した土地で作物が実らない』――それから、これは一般には伝わってないけど『不老不死』」
「えっ、カインさん不老不死なんですか!?」
「驚くところはそこかよ」
カインさんはお皿を拭きながら鼻で笑った。
でも、だって不老不死だよ!? そんな漫画やアニメでしか見たことないような人が、目の前に――。
「――寂しかったりしませんか?」
ふと思ったことを、私はそのまま口にする。もちろん空想の世界でしか知らないけど、不老不死の人ってみんな孤独に悩んでるイメージだから。
でも、突っ込んだことを訊きすぎたなと、あとから恥ずかしくなって、私は顔を隠すようにルイボスティーにまた口をつけた。
「いや、全然」
返ってきた答えが予想外で、私は目線だけをカップから上に上げた。
「そりゃあ、家族や友達に先立たれたら悲しいよ。でもその代わりに、これまでいろんな人に『おいしい』って言ってもらえた! それが嬉しかったな」
その陰りのない笑顔と、ちょっとだけ冷めたルイボスティーの風味が重なって、私はわからされる。
ああ、この人は本当に料理が、そしてそれを食べてもらうことが好きでたまらないんだ。
「それに、目標だってあるしな」
「目標?」
私は首をかしげる。
私はついこの間高校受験が終わって、目標を達成したばかり。だから、そんなずっと生きてる人が目標とか言っても、いまいちピンと来なかった。
「ああ。絶対に菜食料理で神様に認められる! それが俺の生きる目標だ!」
ぐっと拳を握り込んで、カインさんはガッツポーズを作る。
えーと、それってつまり。
「諦めてないってことですか? ずっとずっと」
にっこりと歯を見せて笑いながら、カインさんが黙って頷いた。
すごい。人間の歴史ほとんどまるまるの時間を、諦めずに同じ目標に向かい続けてきたってことだよね。一年間の受験勉強でバテそうになってた私からは想像もできない世界。
私はあっけにとられて、ぽかんと口を開けていることしかできない。
「えーと、それで」
そんな私に気づいていないのか、カインさんは話題を変える。
「なんて言うか。俺の正体を知った上で怖がらないやつ自体レアだから、あんまこういう状況慣れてないんだけど。できればこのこと、周りには内緒な! あんまり悪目立ちしたくないしな」
「わかってますよ」
神様がどうこうってところは、日本人にはあんまり関係ないだろうけど、それでも『人殺し』って思う人はいっぱいいるだろうし。
せっかく料理が美味しいのに、それはとてももったいないことだなと思う。
「あ、それと。こっちはもっと大事なことなんだけどなっ」
打って変わって明るい声色で、カインさんはさらに付け加えた。
「できればまた食べに来てほしいかな、なんて! 詩恵みたいにおいしそうに食べる客、来るとめっちゃうれしいからさ!」
「はい!」
私はすぐに答えた。もちろん、こんなにおいしいお店で、店長さんもすごい人で、また来ないなんて考えられない!
けれど……その直後に、そんなお金がないことを思い出す。
で、私の『しまった』って顔にカインさんも気づいたみたいで。
「あー……聖智学院ってバイト大丈夫だっけ? もし来てくれるんだったらまかない出すけど」
なんて提案をしてくれた。
「いいんですか?」
「一人で店回すのもいい加減きついしな……今日も客を待たせちゃったし。できるだけトラブルは起こしたくないんだ」
クレーマーが突っ込んだテーブルに目線を流して、カインさんはため息をついた。
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