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――なんて思ったけれど、三階を過ぎたあたりで前言撤回したくなってくる。
体育の成績は中の下くらいだけど、持久走は一番苦手!
そんな私にはこの長さの階段は……。結構しんどい……!
息を切らせながらどうにか屋上まで上りきったときには、もうすっかりバテていた。
階段で十分運動したから、今日は掃除しないで帰っていいかな。そんな考えが頭をよぎった。
さすがに帰るのは思いとどまったけど、掃除を始めるのは少し休んでからでいいよね?
そういえば屋上に来るのも入学してから初めてだし、まずはちょっと景色でも眺めよう。
私はボロボロの掃除用具ロッカーをスルーして、ガラス戸を開けた。
「兄さん!?」
「はぇっ!?」
ガラス戸の向こうからそんな声がして、私はびっくりして立ち止まる。
どうやら先に屋上へ来ていた人がいたみたい。
最初は他にも屋上掃除に来た子がいるのかと思ったけど、同じ班の子どころか同じクラスの子ですらないみたい。
「あら、ごめんなさい、私ったら」
先にいた人が恥ずかしそうに口元を押さえる。
なんとなく大人びた雰囲気だったから、視線を落として上履きのゴム色を確認した。
案の定、緑色のゴム底が目に入った。
聖智学院では、学年ごとに上履きのゴム色が違う。私たち一年生は赤で、二年生は青、三年生は緑だ。
だからこの先輩は、三年生のはずだよね?
「それで、ごめんなさい。何か用事かしら?」
「い、いえ。先輩に用事があったわけじゃなくて、掃除当番で」
「掃除当番?」
私が手ぶらなのを見て、先輩は不思議そうに首を傾げる。
私は慌てて言い訳をした。
「そ、その! モップはこれから持ってこようかなと!」
そんな私の様子を見て、先輩はくすくすと笑い出す。
笑われたのはちょっと恥ずかしいけど、でも怖い先輩じゃなさそうでよかったかな。
聖智学院の治安はいいほうだけど、それでもやっぱりヤンキーっぽい先輩からのカツアゲとかは怖いもんね。
「ところで先輩のほうこそ、なんで放課後の屋上なんかに?」
今度は私の方から尋ねると、先輩はどこか遠い目をしてフェンスの向こうを見た。
「ちょっと、兄さんのことを考えていたのよ」
「お兄さん?」
それで私が来たときに『兄さん』なんて言ったのかな。
でも、三年生の先輩のお兄さんだったら、多分大学生か社会人だよね?
高校にいるわけないと思うけど……先輩、結構ボケてるなぁ。
「けっこう前に家を出ていって以来、連絡ひとつよこさない兄がいてね」
なんて、先輩は続ける。
こんな真面目そうな先輩に、そんなお兄さんがいるなんて、ちょっと想像つかないな。
「その兄が、最近吉祥寺の近くまで来てることがわかったんだけど。全ッ然顔を見せる様子がないから、ちょっと落ち込んじゃって」
そういう先輩の横顔が寂しそうで、私は思わず肩を叩いた。
「先輩! 何か私で力になれることはありますか?」
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