第一章:カイン×味噌田楽

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第一章:カイン×味噌田楽

「――『日がたって、カインは地の産物を持ってきて、主に供え物とした』」「はい、よろしい。では、続きを次の方」  四月もそろそろ終わりの、とある土曜日の四時間目。  三つ前の席からの聖書の朗読がすごく遠く聞こえる。  朝の健康診断結果が気になって、授業がちっとも頭に入らない。 『桃園詩恵 身長:一四七・三センチ 体重四八・〇キロ BMI値二二・一』 「――『しかしカインとその供え物とは』――あれ、これ、なんて読むんだっけ?」 「かえりみる、ですよ」 「――すみません、『顧みられなかったので、カインは大いに憤って、顔を伏せた』」  吉祥寺にあるミッションスクールの聖智学院高校は、制服がかわいいことで有名だ。  セーラーなのにヤボったさがない、制服ディズニー映えしそうなデザイン。その上、肌の露出さえ増やさなければ、アレンジ着崩し自由の校則。  その制服が目当てで、私は偏差値が五つも上のこの高校を受験した。 「――『あなたが土地を耕しても、土地は、もはやあなたのために実を結びません。あなたは地上の放浪者となるでしょう』――」 「はい、声が大きくて大変よろしい。次」  だけど、それだけ上の志望校を狙うとなると、当然受験はめちゃくちゃ大変で。  勉強中の糖分補給のため、コンビニスイーツやら炭酸飲料やらを摂りまくったことが原因で――入学して最初の健康診断でついにBMI二二、つまり標準体重の真ん中を越えてしまったというわけだ。 「桃園さん、次!」  突然シスターの苛立った声が降ってきた。  えっ、もう私の順番!? ええと、どこから読むんだっけ? 「創世記第四章十五節から」  隣の席から来花がこっそり教えてくれた。  私は慌ててページを繰って、ごまかすように大声を張り上げた。 「ええと――『Kから聞かされた打ち明け話を、奥さんに伝える気のなかった私は』――」 「あっ、バカ! 漱石じゃなくて創世記だってば!」  来花のツッコミが入ると同時に、教室じゅうから巻き起こる爆笑。  やらかしたことに気づいて、顔がかっと熱くなる。 「桃園さん、ちゃんと授業を聞きなさい!」  シスターの金切声に、私は縮こまった。来花が慌てて、私が読むはずだったところを引き継ぐ。 『主はカインに言われた、「いや、そうではない。だれでもカインを殺す者は七倍の復讐を受けるでしょう」。そして主はカインを見付ける者が、だれも彼を打ち殺すことのないように、彼に一つのしるしをつけられた』
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