第三章:ガブリエル×オニオンリング

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第三章:ガブリエル×オニオンリング

 ゴールデンウィークで世間が騒がしい。  聖智学院は私立高校で土曜授業があるから、ちょっとだけ休みが少ない。やっぱりなんだかちょっと損した気分。  でも私が憂鬱な理由はそれだけじゃなくて。 「お母さん、やっぱり連休中、どっか行こうよー」  自室のベッドの上から、私は声を張り上げた。 「だから今年はそこまでお金ないってばー!」  おんぼろアパートの壁を突き抜けて、隣の部屋からお母さんの声が返ってくる。  普段なら近所迷惑なんだけど、今日は両隣の家が旅行中だから気兼ねしない。  もちろん私だって事情はわかっている。  無理言ってバカ高い聖智学院の入学金を払ってもらったばかりだもん。  夏のボーナスまでうちはド貧乏なんだ。 「だいたい、そんなに言うなら詩恵からも家にお金入れてくれればいいのに。バイトの時給、けっこういいんでしょ」  お母さんが麦茶のコップを持って部屋に入ってきた。  大声出したからちょうど喉がかわいたところで、こういうところに気づくのはさすがお母さんって感じ。  でも、それとバイトの時給は話が別だ。 「イヤだよ。バイトだってけっこう大変なんだから。自分で稼いだお金は自分で使いたいよ」 「アンタ、それを養ってもらってる親の前で言う?」  あんず色の口紅を塗った唇をゆがめて、お母さんが苦笑する。  二十歳で歳の差デキ婚したお母さんは、高校生の娘がいるにしては見た目も実年齢も若くて美人だ。  それに比べて、私はチビデブだけど。 「そんなにバイトが大変なら、店長さんに言って仕事減らしてもらえば?」 「うーん、仕事が大変なのはその店長のせいというか、なんというか」  つい先週の木曜日、カインさんがうっかり熱湯をこぼしたときのことを思い出して私は頭を抱えた。  ――熱湯が一瞬で全部湯気になって、煙幕状態だったなぁ。  普通ならありえないバ先のトラブルに、私は深いため息をついた。
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