窓辺の景色と白い毛並み

1/1
前へ
/1ページ
次へ
僕が大好きだったあの子が、この世界からいなくなった。 病気だった。詳しいことは知らなかったけれど、こんなにあっけなく死んでしまうなんて。 仕事の関係で訪れていたこの病院で、僕は彼女と出会った。 出会ったと言っても、僕が一方的に見惚れてただけなんだけど。おかげでお客さんから怒られた。 それから、僕は仕事で病院に行く度に彼女を探した。彼女はいつも笑顔で、他の患者さんにも優しくて、みんなそんな彼女が大好きみたいだった。僕はよく中庭の木に登って彼女を見ていた。そこからだと彼女の病室が見えるのだ。別にストーカーじゃない、決して違う。もう一度言う、ストーカーじゃない。 僕にも仕事があるし四六時中そんなことをしてるわけじゃない。 けれど、いつも笑顔の彼女が1人の時ふとした瞬間悲しそうに笑う姿が忘れられなかった。 あれは丁度、彼女が死ぬ1週間ほど前のことだ。いつものように木の上から彼女を眺めていたら、顔を上げた彼女と目が合った気がした。いやいや、まさか。と思った瞬間、彼女が確かに僕の方を見て微笑んだ。 驚いた僕はそのまま木から落っこちた、めちゃくちゃ痛かった。 なんとなく気まずくて、僕はそのまま帰った。あの時、勇気を出して声をかけていれば─── 帰るとすぐに上司から連絡があった。僕の管轄地区で地震があったらしい。死傷者が多く、僕は近くの病院や現場を飛び回った。 やっと仕事が落ち着き、久しぶりに病院に行ったら彼女の病室は空き部屋になっていた。 近くにいた同僚を捕まえて話を聞くと、前日の夜に病状が悪化して亡くなったらしい。 その同僚のリストも見せてもらったが、ハッキリ彼女の名前が書いてあった。 僕はその場に崩れ落ちた。泣きそうになるのを堪える僕の周りを、皆素知らぬ顔で通り過ぎていく。 なんで……そりゃ、僕のリストに名前があったって何かできるわけじゃないけれど…所詮僕は下っ端だ。でも、どうせ最後なら、僕が彼女を迎えに行きたかった。彼女が安心して逝けるように、僕が案内したかった。 何のためにこんなダサいローブ着てると思ってんだ。僕は真っ黒な布の端を握りしめた。 「死神さん」 声に驚いて振り向くと、そこには1匹の白い猫がいた。 「よかった!やっと見つけた。みんな似たような服の人ばかりだから見つけるのに時間がかかったんだよ。」 嬉しそうに喉を鳴らすその猫は、間違いなく彼女だった。姿は変わっているけれど、魂の形は一緒だ。 「なっ、なんで…」 「実はね、私、死神さんのことずっと見えてたの。多分、いつ死んでもおかしくないって状態だったからかなぁ。 それでね、いつも木の上から私のことを見守ってくれてた死神さんとちょっとお話ししたいと思ってて。神様にお願いしたら、使い魔になるのはどう?って言われたんだ。」 「ま、待ってよ!それじゃあ、君はもう───」 転生できないじゃないか、と言おうとしたけれど、彼女に遮られた。 「死神さんには似合わない真っ白な猫ですけど、使い魔に1匹どうですか?」 こてんっと首を傾ける彼女に、僕は不覚にもときめいてしまった。まあ、猫になっても彼女は彼女だし……… 「よろしくお願いします。」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加