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彼岸を控えた山の中でした。ほんのりと湿り気を帯びた、夜の空気が、山の奥から流れてきます。裏山の奥へ続く小道には、彼岸花が咲き誇っているのが、夜でもその影で分かりました。
砂利を踏む音だけが大きく聞こえます。お師匠様の羽織の袖を握って、―――はぐれることはないだろうけど、それでもついていきます。
緋乃先生はたえず左右に目をやっていました。
「動物の気配は多いけれど、人の気配はないわ。安心してちょうだい春人」
「緋乃先生がそう言うなら安心できます」
「ま、ね」
緋乃先生は苦笑します。
先生は、夜目が利くことを、私はとっくの昔に知っていました。
夜の中であれば、その目も、耳も、普通の人間とはくらべものにならず―――そんじょそこらの霊能者、異能者だって、太刀打ちはできません。
何故なら、
「…誰かが近くにきたとしても、吸血鬼の先生が分からないのなら、私たちにだって分かりっこありませんよね」
「全くその通りだよあかり」
「まあネ。そこは自信持ってるから私」
そして、先生は今度こそ、背中からその二枚の翼を広げました。
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