ひかりのしずく

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急な石段を、何段も登っていきます。 森の中、月光を遮っていた木陰が徐々に広がり、光がこぼれるように差し込んできます。 石段の先は、大きく広がる、山の中の草地でした。 一万坪は、あるでしょうか。 昼には笹原か、薄の原っぱにしか思えないでしょう。 草地を取り巻く山並みが、黒々と夜のなかにわだかまって浮かび上がっていました。 降り注ぐような秋の虫の声。 星の彼方から流れてくる、微かな冷たい風。 月の光が、音を立てて世界を照らしているようにも思える中で。 蛍のような光が乱舞していました。 夜の草原の中に、無数の蛍が飛んでいる。そんな風に思えました。 しかし違いました。 蛍は蛍光色ですが、その色は青白く、そして、動きません。 かがんでみると、それが、花の放つ光だということがわかりました。 ―――小さな、ツリガネソウのような、白い花が、秋の笹原の中で、山の端の月の光を浴びて輝いて―――そして、青白い光を放っている。 それが無数に、風に揺れて、月光の中に乱舞しているように見えるのだと、私はその時はじめて気づいたのでした。
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