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「9月、うまいこといけば10月の連月…晴れた満月の晩に、この月光百合は開花するんだ」
お師匠様はそう言いました。「試験管を」というので、私はお師匠様に持ってきた試験管を一つ渡しました。
そしてお師匠様は、その花―――月光百合の花に、ちょん、と指先で触れました。
その時、光輝いている花びらから、爪の先ほどの大きさの光の雫が一滴、零れ落ちてきて―――それが、試験管の底にまで流れ落ちていきました。
お師匠様は、どこか儚いような、悲しいような―――そんな微笑みに見えました。
「月光百合は、一年に一度か二度しか咲かない。そして一つの花から、この…雀の涙にも満たない一滴しか採れない」
「それが…お薬の原料になるんですか」
「とっておきの霊薬よ」
今度言ったのは緋乃先生でした。唇をへの字に結んで、
「…特に再生…不可逆的な人体のダメージを回復させてしまうの。骨髄損傷などの神経損傷だって回復させてしまう。脳卒中からだってリハビリいらずになるのよ。全部とは言わないけれど、一部のがんにも特効するし、視力だって回復するし、認知症だって治る」
「…夢のような」
「そう、夢のような薬でしょ?」
緋乃先生は腕組みをして、苦笑しました。
「だから乱獲されたわ。一年に一度、それも晴れないと開花しない月光百合の『光の雫』…」
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