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緋那先生は、その小さな輝く花びらを指さして、
「あの花の雫は、さっきのように採らないとダメなの。一回触れるだけよ。花を潰して絞れば三滴から五滴は採れるんだけれど、そうすると、枯れてしまうわ」
「…だから、乱獲…」
「そう」
緋乃先生はその紅い瞳をきらめかせて、
「絞れば採れるからね。でもそうすると枯れるから、明治期にはほぼ全滅。今日本にごく僅かの群生地が残っていて、この『千鶴山群生地』はその一つよ。といっても、私もここ以外は知らないわ。あと二か所か三か所はあるらしいんだけれど、厳重に管理されていて、情報さえも漏れださない…当たり前の話よね」
「ほんの僅かしか採れないのに、薬となるとあっという間に使い切ってしまうんだからねえ」
花を指先でつつきながら、お師匠様は苦笑していました。緋乃先生も肩をすくめて、
「…だから、『光の雫』は、とっておきよ。持っているだけで命を狙われるレベルの霊薬…。私と春人以外には、口に出さないようにね」
「分かりました」
私はそう答えました。それがどれだけ重要なことか―――身に染みて感じることができました。
あの時、お師匠様が、『光の雫』を使ってくれたから、私は生きていられるんだ―――。
でも、それは、その光の雫によって、私が救われると同時に、救われなかった人がいるということ。私の命と引き換えに、死んだ人がいるということ。
―――だから、そんな、名も知らぬ誰かのためにも。
私は、きっと、本当に幸せに笑っていられるような人間になるべきなんだろうなって。
そう思いながら。
「―――手伝います、お師匠様」
「うん、そうしてくれるかい」
―――光の雫の収穫は、月が隠れるまでの間。
それまで、私は、これからの誰かのために、がんばろうと決めたのでした―――。
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