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「…僕は、あかりのために、光の雫を使ってよかったと思っていますよ」
五月雨春人は、翌日、仏壇の前でそう手を合わせた。
あかりは知る由もなくお経をあげたりしているが、仏壇の奥の位牌は、実はお師匠様―――春人の親兄弟ではない。
春人もまた、この店の前の店主によって、命を救われ、魂を救われ、そして人のために尽くそうと、そう願った末の人物であった。
彼の師匠は、何年か前に病を得て、この世を去った。
春人は、師のために、光の雫を使おうとした。
しかし師はそれをとどめ、―――春人が最初、救おうとしていた、あかりに使えと遺言したのである。
―――あかりのために、師を犠牲にしたのではないか。
その選択が間違っていたのではないかと、春人は問い続けていたが―――昨夜のあかりの表情を見て、やっと、それは、晴れたのであった。
それで、きっと、間違ってはいなかったし。
―――多分、師匠も、笑えていると思うから。
なにぶん、ものがものだけに、物騒な側面もある薬なのだけれど。
それでも、人を救えることは、尊いことだと思うから。それによって、笑顔になれる誰かの命が、魂があるのなら―――。
「…見ていてくださいね」
五月雨春人はそれだけ言って笑い、仏鈴を鳴らしてから、―――昨夜頑張ってくれたあかりを寝かせてやろうと、台所に立った。
その日の朝食が結局丸焦げの有様で、あかりが作り直したのは言うまでもないことであった。
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