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お師匠様の薬屋さん『五月雨薬店』は古いお店だそうですが、創業がいつなのかは、お師匠様本人も知らないそうです。
ただ戦前どころか江戸時代より前からあるそうで、お師匠様も三十代目の主様なのだとか。
どういう事情があるかはお師匠様は話してくれませんが、お師匠様はまるで若いのにご隠居みたいな着物をいつも羽織って、店の奥に座っています。
私はそのお手伝い。
といっても、学校へ行って、帰ってきてから、お師匠様の家の家事をするだけです。お師匠様はずっと座ったまま、お薬を作ったりしているようです。
いつもニコニコしていますが、お師匠様がどういう事情で家を継いだのかとか、どういう人にお薬を売っているのかとか、そういうことは、あんまり良く知りません。お師匠様も、口を開きませんし、話したがらないのは分かっていますから、私は聞くことをしません。
ただ、いずれか、お師匠様は私にお店を継がせる気でいるようで、
「あかりが居るから結婚しなくてもいいな」
なんてことを言います。
そのたびに、私が少しドキッとするのも、きっと知らないのだろうと思います。
―――そういう意味じゃないと知っているのに。
誤解を招きかねないとも知らないで、そういう言い回しをするのですから、お師匠様もたいがい、鈍いのだと思っています。
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