12人が本棚に入れています
本棚に追加
私が洗濯物を取り込んでから畳んでいると、店の表で何か物音が聞こえました。
それでやっと、私は、夕方お客様が来ることを思い出しました。
といっても、知り合いなので、特に気張ることもないんですけど…。
「そうだ、先生が来るんだった」
私はお洗濯ものを畳み終えると、お茶を淹れに向かいます。
台所ではお師匠様が急須を片手に右往左往していたので、
「お師匠様、私に任せてください」
「あ、ごめんよ、あかり。どうにもお茶はやり方もよくわからなくてね」
お薬の煮だしなんて山ほどやっていて、そのさじ加減も心得ているはずのお師匠様が、お茶淹れ一つできないのは不思議なことの一つなのですが、それだから私の仕事があるのだとも言えます。
「お師匠様は先生とお話しててください」
「すまないね。先生の応対をしてくるよ」
「紅茶にしますね」
「いつもありがとう」
お師匠様はまた店先に向かいますが、お師匠様が取り出していたのは緑茶の缶でした。先生は紅茶が好きだと知っているはずなのに、やっぱりお師匠様は間が抜けています。
最初のコメントを投稿しよう!