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先生は、紅茶に口をつけてから、その真っ赤な、ルビーのような瞳で私を見ました。
夕暮れの色よりも優しい、宝石の色をしていました。
「ともあれこんにちは、あかりちゃん。お邪魔してますよ」
「こんにちは先生。今日は早いんですね?」
「ん、まあ色々あって早あがり。今日はこれから用事だし、予約も入れてなかったしね」
そう言って、緋乃先生は八重歯を見せて笑います。笑い方も、男勝りだけど、美人です。カッコいい、女医さんなんです。
―――やっぱり、家事はできないみたいですけど。
ほんのすぐ近くで、お医者さんを開いてますけど、夜遅くまで、明かりが灯っていることもしばしばで、働き者の女医さんでもあります。
そんな先生はそれからお師匠様の方を見て、
「今宵は満月、そして快晴ときたからにゃ、今年こそは『収穫』できるかしらね?」
「期待したいですね。まず大丈夫じゃないかと思いますが」
そう言ってお師匠様も紅茶を口にします。緋乃先生もビスケットを口に放り込みながら、
「今年はあかりちゃんは連れていくのかい?春人」
「そのつもりでいます」
「…?」
連れていく?
その言葉に私は首を傾げ、「春人、話してなかったのか?」という先生の言葉に、お師匠様は笑うばかりでした。
「…話してなかったんだな、春人」
「何がです?」
「今年の『収穫』の話よ」
そう言って、先生は笑いました。
「月光百合の『光の雫』の収穫さ」
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