夕暮れ

6/6
前へ
/20ページ
次へ
先生は、紅茶に口をつけてから、その真っ赤な、ルビーのような瞳で私を見ました。 夕暮れの色よりも優しい、宝石の色をしていました。 「ともあれこんにちは、あかりちゃん。お邪魔してますよ」 「こんにちは先生。今日は早いんですね?」 「ん、まあ色々あって早あがり。今日はこれから用事だし、予約も入れてなかったしね」 そう言って、緋乃先生は八重歯を見せて笑います。笑い方も、男勝りだけど、美人です。カッコいい、女医さんなんです。 ―――やっぱり、家事はできないみたいですけど。 ほんのすぐ近くで、お医者さんを開いてますけど、夜遅くまで、明かりが灯っていることもしばしばで、働き者の女医さんでもあります。 そんな先生はそれからお師匠様の方を見て、 「今宵は満月、そして快晴ときたからにゃ、今年こそは『収穫』できるかしらね?」 「期待したいですね。まず大丈夫じゃないかと思いますが」 そう言ってお師匠様も紅茶を口にします。緋乃先生もビスケットを口に放り込みながら、 「今年はあかりちゃんは連れていくのかい?春人」 「そのつもりでいます」 「…?」 連れていく? その言葉に私は首を傾げ、「春人、話してなかったのか?」という先生の言葉に、お師匠様は笑うばかりでした。 「…話してなかったんだな、春人」 「何がです?」 「今年の『収穫』の話よ」 そう言って、先生は笑いました。 「月光百合の『光の雫』の収穫さ」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加