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人が一人通れるくらいの間を開けて、並んで歩く。目指す方向が同じだけ。これは、不可抗力だ。
「杏樹……。わたしと、会わせたがらなかったでしょう?」
憂いを含んだ表情で、椿さんが言う。寂しげな横顔は、椿さんの美しさを引き立たせた。
「いえ。杏樹は──」
言いかけて、結局は何も答えられない。椿さんはフフっと笑った。
「わたし、駄目なんです……」
ふいに、立ち止まる。
「いつも、誰かの大切な人を好きになってしまう……。わたし、そういう女なの……」
一歩隣の距離から、椿さんの潤んだ目が、俺を見上げる。うっすらと開いた、艶やかな唇を向けて。
本屋に向かっていたことなど、もう、どうでもよくなる。光に吸い寄せられるように、椿さんの肩に触れようとした。
その時──。
「あれー? 今日は、杏樹と一緒じゃないのー?」
……一番、会いたくない人の声。田舎と言うほどでも無いが、都会とも呼べない郊外では、よくあること。それは、昔の知人に会う。
振り返ると、そこには、高校の同級生が居た。俺が、会いたくない女。
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