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孫と孫
(……暑い……)
流れ出る汗を拭う。
恨めしい太陽は、眩しすぎてまともに見上げることさえ出来ない。
仕事の都合で久しぶりの連休が取れて…
私は、母と祖母の墓参りに出かけた。
日帰りで行けるとはいえ、それなりに遠いこの場所は、やはり連休でもなければ来られない。
忙しいことを言い訳に、ずいぶんとほったらかしてしまった。
だから、暑いことくらいは辛抱しなきゃいけないんだ、きっと。
(……あれ?)
ふと、目を遣った先にあるのは、もしかして喫茶店?
こんな田舎町に、喫茶店があるなんて思いもよらなかった。
近づいて行くとやはり私の見間違いではなかったことがわかった。
扉を開けると、ドアベルの軽やかな音が響いた。
店にはお客さんはいない。
「あ…!」
中に入った途端、私の目は各テーブルに置かれたあるものに惹きつけられた。
私は席に着き、それをじっとみつめる。
「……いらっしゃいませ。」
「え?あ、は、はい。」
「水中花…お好きですか?」
「は、はい、以前、おばあちゃんの家にあって…懐かしいなぁって…え?」
ふと顔を上げると、お冷を持ってきてくれた男性が意外とイケメンで、急に緊張してしまう。
「実は、この水中花…僕の祖母の家にあったもんなんです。
祖母が亡くなって、遺品の整理に行ったら、そこにこの水中花がたくさんあって…
その時、思い出したんです。
僕が子供の頃、祖母の家に遊びに行くといつも水中花を見せてくれたことを。
そしたら、とても捨てる気にはなれなくて、全部持って来ちゃったんです。」
「そ、そうなんですか。」
私はアイスコーヒーを注文し、水の中の赤い花をみつめた。
確か、おばあちゃんは、昔、水中花を作る工場で働いていたとか言ってたな。
だから、おばあちゃんの家にはいつも水中花があった。
水の中でゆらゆら揺れる水中花…
何とも癒される光景だ。
「お待たせしました。」
注文したアイスコーヒーが置かれる。
「僕の祖母…昔、水中花を作ってたんです。」
「えっ!私のおばあちゃんも水中花の工場で働いてたんです。」
「えっ!?もしかして隣町の宮村工業ですか?」
「そこまではわからないですが…この近くのはずです。」
「水中花を作ってた工場は、このあたりには宮村さんだけのはず…きっとあなたのおばあさまも同じ工場ですよ。」
「そ、そうですかね!?」
そんなことがきっかけで、男性は私の向かいに座り、私たちは他愛ない話に花を咲かせた。
「近々、また来ます。」
「お待ちしてますね。」
約二時間後…曖昧な再開の約束をして、私は店を出た。
もしかしたら、これはまだ未婚の孫に、おばあちゃんがもたらしてくれたご縁?
なんて、都合の良い想像に、私は密かに微笑んだ。
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