相合傘

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相合傘

(うわ~……) 突然の豪雨に、私は絶望した。 今日は、見たいアニメがあって… だから、今日はとにかく少しでも早く帰って、夕飯もお風呂も済ませて、ゆっくり見ようと思ってたから、必死で用事を済ませたっていうのに、なんでこんな時に土砂降りなの? しかも、なんで私は傘を持ってきてないの? 仕方がない。 バス停まで走るか… でも、びしょ濡れでバスに乗ったら、迷惑がられるだろうか? 少なくとも座ることは出来ない? 迷っていたら、唐突に雨の音が激しく聞こえた。 誰かが、傘を差しかけたんだ。 (げっ!) それは、師岡だった。 同じクラスだけど、しゃべったことはほとんどない。 だって、こいつ…ものすごい変わり者なんだもん。 「これを使え。」 師岡が差し出したのは、骨も柄も竹製の変わった傘だ。 さすがに、変人の持つものは変わってる。 「いいよ、私、走って行くから。」 「馬鹿を言うな。男として、困った女人を見過ごすことは出来ん。」 女人って呼ぶな。 この師岡龍之介は、一言でいうと侍かぶれだ。 制服がないのを良いことに、刀こそ差してはいないけど、袴をはき、髪はポニーテールに似た感じにしてる。 そして、やたらと武士道というものにこだわってるみたいだ。 なのに、家がお金持ちで、成績が良くて、しかも、スポーツは万能、おまけにイケメンということで、こんな変な人なのに女子にはけっこう人気がある。 みんな、どうかしてるよ。 こんなに変わった人なのに、気持ち悪くないの?? 私がいくら拒もうと、師岡は傘を持って行けと食い下がる。 「じゃあ、バス停まで送ってくれる?」 「そんなことならお安い御用だ。」 師岡に傘を借りたくないばっかりにそんなことを言ったけど、失敗したと思った。 私はバス停までこんなおかしな人と、相合傘で歩かなきゃいけないんだから。 案の定、行き交う人が私達…いや、師岡を見てくすくす笑う。 普通の傘と違って、その傘は大きいから、密着しないで済む。 それに雨の音が騒がしいから、黙っていられる。 だけど、しばらくすると、雨は少しずつおさまってきて… 「……珍しい傘だね。」 黙ってるのが気詰まりで、私はつい声をかけた。 「雨の音が良いだろう?」 言われてみれば確かにそうかも。 普通の傘よりも激しいけど、軽やかな音がする。 「うん、そうだね。」 「日本人の作るものって、本当に良いよな。 これ、和紙で作られてるんだぜ。」 「え?紙?雨にぬれても大丈夫なの?」 意外なことに、師岡は話しやすいし、優しい人だった。 バス停に着く頃には、苦手意識がすっかり消えてしまっていることに驚いた。 「じゃあな。気を付けて帰れよ。」 「うん、ありがとう。」 良いって言ったのに、もしも、降りてからまた雨が降ってたらいけないからって、傘を貸してくれた。 小雨の中を歩いていく師岡の後ろ姿が、なんとなく格好良く見えてしまった。
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