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「だってねえ……学問は男子がやるものだっていう風潮のせいで、この寺子屋に来るのは男の子ばかりだもの。それにこんな山奥で街へも遠いとなれば、同世代の女の子と遊べなくて、つまらないのよ!」
だから──と、彼女は目を細めた。口説くときのような色気のある表情である。緋月は戸惑い、後ずさろうと足が動く。
しかし肩を掴まれ、それは叶わない。
「あなたのような、女の子みたいな子が来てくれて、嬉しいわ! 髪に簪をさしたり、お化粧をしたり……たくさん遊びましょう!」
「は? え、いや……俺は」
そんな趣味は無い、と言いかけたが、興奮している梨桜に遮られた。
「あ、そういえば璃狼さん! こんな可愛い子をどこで見つけたの?」
耳元で大声を出されるだけでなく、また力いっぱい抱きしめられた。息苦しい。
「その話は後にしてくれ。とりあえず、粥を頼む。時間がかかるようなら、先に白湯を。とにかく、胃が暴れないような優しいものを用意してほしい」
「分かりました! 緋月くん、ちょっと待っていてね?」
言うが早いか、緋月を放り出して梨桜は駆けた。
急に圧迫感がなくなった緋月は畳の上に倒れ、しばらくの間、何度も呼吸を繰り返した。目の前がぐらぐらする。眠気と、若干の吐き気。
緋月は一言呟いて、そのまま眠りについた──。
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