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※
緋月はとても疲れたらしく、畳の上に転がっていた。
「と、とても元気な奥さんだね……」
「あれは妻ではない。ここに住んでいる、給仕のものだ。おまえも明日から、食事をする時は広間に来るといい。梨桜の食事が食べられる」
緋月からの返事はない。 璃狼がそちらに目を向けると、緋月は規則正しい寝息を立てていた。
おそらく今まで必死に掴んでいた緊張の糸を、拾われた安心感によって手放したのだろう。
「…………」
璃狼は緋月を抱き上げると、別の部屋に連れて行き、布団を敷いてそこに寝かせた。
緋月の顔をしばし見つめる。彼は子供らしい、あどけない表情で眠っていた。よほど安心しているようだ。
彼を起こさないように部屋を出よう。そう思って方向転換したとき、急に着物の裾を引っ張られた。
「ひ、な……い…………っしょ……に」
白い頬に、ひとしずく涙が流れた。璃狼はしゃがみこんで、緋色の頭を撫でる。
「安心しろ。ここは安全だ。あなたは、一人ではない」
緋月に言葉が伝わったのか、彼は泣き止んだ。また規則正しく眠る。
「ここでは、あなたが恐れるものは現れない。少し休んでいくといい」
緋月は少し微笑んで着物の裾を離した。璃狼は、ふ、と息を吐く。
「……おやすみ」
一度、緋月は寝返りを打つ。璃狼は立ち上がると、部屋を出た。
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