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黄金色の月が屋敷を照らす。縁側で空を見上げていた緋那は、ふぅ、と息を吐く。
緋月が異界を出て、ひと月と七日が経った。緋月は無事だろうか。
異界は大騒ぎだった。仕方のないことだろう。異能をもつ子供が消えたのだから。緋那も監視の目がつけられたが、大人しくしていたら減った。緋月捜索へ手を回したのだろう。
一人で空を見上げるのも飽きた。でも妖怪を側に置くのも嫌。彼らは凶暴で、弱い者を苛めるのが大好きだから。
「緋蝶」
ふわり、と緋色の蝶がどこからともなく現れる。緋那は手を伸ばす。
「ごめんね、呼び出して。でも一人で月を見るのも面白くないから」
蝶は静かに指に止まる。数年前、緋月と一緒に呼び出した式神のようなもの。緋月は鳥の形だけど、自分のは蝶。式といっても意思があるらしく、緋那は普段から自由にさせている。緋月がいた頃は勝手にどこかへ行くことがあったけれど、今はずっと側にいてくれる。
「あなたなら、緋月の様子を見ることもできるのかしら」
そのとき、ひたりひたひたと僅かな足音が背後から聞こえた。妖怪の誰かだろう。確認するのも億劫だ。
「あなたは緋月様との縁が強いですからね。式も緋月様を探すこともできるでしょう。どうか、緋月様をお探しください」
「嫌よ。捜索はあなたたちが率先してやると言っていたでしょう。結果が出るまで私は動くつもりはないわ」
「そうですか。わかりました」
静かに妖怪が去っていく。緋那は小声で緋蝶に話しかける。
「お願い、緋蝶。緋月を探して。妖怪たちに見つからないよう隠れながらね。必要なら私も手を貸すわ」
緋月の無事が確かめられればそれでいい。
緋色の蝶がふわりと羽ばたく。きらきらと闇にとけて、見えなくなった。
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